――人工的に大量生産ができないだけに、初期投資を回収するまではかなり時間がかかりそうですね。
ホルスタインの牛はほとんど人工授精で繁殖させますが、水牛はそれが難しいので、種牛のオスに頑張ってもらうしかないんです。
仮に、18頭のメスをフルに妊娠させても、イニシャルコストを回収するのに10年はかかるでしょうね。水牛はホルスタインの4倍近い価格で、1頭300万はしますから。
本場で自分史上最高のモッツァレラ作りに目覚める
――そんなに高価な水牛を、北海道時代は個人で9頭も購入したとは。動物ですから、お世話するコストもかかりますし、かなりの先行投資ですね。そこまで水牛にこだわるのは、やはりモッツァレラの原体験が大きいのでしょうか。
南イタリアで本場のモッツァレラを食べたのがきっかけです。現地でさまざまなモッツァレラを食べ込んでいくと、違いがわかるようになるんですね。修業時代に自分なりの基準がはっきりして、自分史上最高のモッツァレラ作りにこだわりはじめました。
――もともと水牛がいない、自然環境も異なる日本でのモッツァレラ作りですね。かなりご苦労があったのではないかと。
それを話しはじめると長くなりますよ(苦笑)。最初は地中海性気候に近い千葉で農地を探したんですが、非農家の人間が土地を取得するのはまず無理なんです。それでも諦められず、静岡や岡山を回って、最終的に宮崎で農協の不良債権の牧場を買いました。そこで、5000万円かけて輸入した水牛でモッツァレラを作りながら、なんとか頑張って3年目ぐらいで軌道に乗せたんです。
ところがその後、牛の口蹄疫の病気がはやって、僕がいち早く水牛の異変を通報したことが仇になり、口蹄疫の原因は水牛だということにされて全頭処分されてしまった。あまりにも理不尽な出来事で、全財産を失いました。
第三者機関や獣医が調べたら、水牛が感染源である可能性は低かったんですね。それなのに国や県から何の補塡もなく、3000万円近い借金が残ってしまった。仕方ないから、東京でガソリンスタンドとラーメン屋をやっていた実家の仕事を手伝ったり、レストランで皿洗いのバイトをしたりして、7年間かけて借金を返しました。
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