「ヤバい暗殺事件」闇に葬ったサウジ仰天の変貌 ムハンマド皇太子の改革が急ピッチで進行中

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ムハンマド皇太子が設立した 「ミスク財団 」などが若者の活動を積極的に支援していることも、若者たちの意欲を駆り立てる。さらに、「サウジの若い起業家たちは、ITやAI(人工知能)、ロボット技術などの分野に積極的に参入している」(在リヤドの実業家)と言い、石油に代わる産業の芽も出始めているようだ。

ビジョン2030の目標達成は微妙

ムハンマド皇太子をモチーフにしたアート作品も(筆者提供)

もっとも、あまりにも変化のスピードが速く、急激に社会の自由化が進んだため、一部の若者がはしゃぎすぎとの声もある。「女性が(伝統衣装の)アバヤをめくって踊る動画をSNSにアップするなど、顔をしかめさせるような逸脱行動もある」(現地のコンサルタント)との嘆き節も聞こえてくる。

サウジは、メッカやメディナというイスラム教の2大聖地を抱え、伝統や文化もあり、古きよきものを残しながらドバイのような近代都市とは違った、サウジならではの魅力をつくっていけるかどうかが重要になりそうだ。

ビジョン2030の改革目標自体も実現が危ぶまれている。失業率の7%への減少や、中小企業が占める国内総生産(GDP)の割合を20%から35%に引き上げ、女性の労働参加を30%に引き上げることなどを目標に掲げている。だが、このプランの策定に関与した政府関係者は「目標のうち約3割は目標値の50%程度しか達成できないだろう」と認める。

ビジョン2030は、アメリカのコンサルタント会社マッキンゼーが2015年12月に作成した報告書が下敷きになったと言われており、かなり野心的なものだった。ただ、「目標があまりにも高すぎたり、サウジの実情に合っていなかったりするものも多い」(政府関係者)とされ、サウジ王室は「ビジョン2030の実行に向け、外国コンサルを排除してサウジ国内のコンサルを採用するよう通達を出した」(同)という。

ただ、サウジ政財界の間には、改革を進めていくしかサウジが生き残る道はないとの共通認識があるという。現地のコンサルタントも「意欲的に学ぼうとする姿勢がある」と評価する。背景には、自動車の自動運転などの技術進歩や、二酸化炭素排出規制といった脱石油の世界的な変化とサウジも無縁ではないとの事情がある。保守的といわれてきたサウジ社会は、必要に迫られる形で想像を超えた速さで変貌を遂げつつある。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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