東京大学 エリート養成機関の盛衰 橘木俊詔著 ~怪しくなっているなんでも一番という東大像
評者が北京日本学センターの客員教授をしていたときのこと。日本通の中国人学生に、「北京大学は日本の東大かな」と言ったことがある。肯定の返事はもらえなかった。「理工系は清華大学のほうが上でしょう。外交官は北京外国語大学からもたくさん出ている」。
なるほど、アメリカだって、ハーバード大学を東大と断定しにくい。エールもプリンストンもスタンフォードもある。となると、どんな分野も一番という東大が世界基準では特異大学ということになる。
ところが本書を読むと、なんでも一番という東大像が近年かなり怪しくなっていることがわかる。
東大のエリート養成は、「盛」から「衰」に向かっているという。それぞれの大学出身のエリート数を卒業生数で除した輩出率でみると、社長は高い順に、京大、一橋、慶応、東大。役員は、京大、一橋、東大、慶応である。
著者は、経済分野での東大の凋落の原因を、企業において営業力のウェイトが高くなったことに求めている。「人あたりの良い、コミュニケーション能力に優れ」「身体を張って」働く者が人材になってきたからだとする。
東大のエリート輩出力の低下は、政治エリートについてもいえる。東大出身の国会議員数は約30年で180人から143人、つまり37人減少してしまっている。慶応は24人から75人に増えている。
東大が減った理由は、官僚から政治家への経路がなくなってきたからだという。東大の凋落は、文学エリートなどの分野についてもいえる。