プラスチックごみ「再生」のまだまだ静かな歩み P&Gが海洋ごみを容器原料とする技術を確立

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スーパーの店頭に置かれた回収箱(写真:エフピコ提供)

1992年からはリサイクル原料を使ったエコトレーを開発、売り出した。「トレーからトレーを作ったのは世界初」(エフピコ)で、食品トレー(発泡スチロール製の汎用品)の場合、1年間に約8400トン(約15億4000万枚)以上を回収し、「出荷ベースで考えると、30%の回収率が実現している」という。2008年からは、回収したペットボトルなどを材料に、透明なプラスチック容器の製造も始めた。

運び込まれた使用済みトレーを手選別する従業員ら(写真:エフピコ提供)

そもそも、エフピコがトレーなどの回収に乗り出したのは、環境問題への対応というよりは、企業防衛の色彩が強かった。「全国で埋め立て処分場の逼迫が問題になっていた約40年前、広島では消費者運動が盛り上がり、発泡スチロール製トレーがやり玉に挙がった。

不買運動にまで発展しそうだったため、業界で回収に取り組み、その後のエフピコ方式実施につながった。回収事業のきっかけは、いわば企業防衛だったが、今では事業を進める強力なエンジンになっている」。エフピコの佐藤修取締役はそう振り返る。

サントリーグループは今年5月、「2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルに、リサイクル素材あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロとする」というプラスチック基本方針を策定した。

従来、使用済みペットボトルから再生原料を作り、さまざまな製品を作るリサイクルはあったが、再びペットボトルに戻すのは技術的に不可能といわれていた。

リサイクル会社「協栄産業」(本社・栃木県小山市)は、「ボトルからボトルへ(B to B)」のリサイクルを目指し、技術開発を重ねた。2011年には、サントリー食品インターナショナルとともに、国内初の「B to B メカニカルリサイクルシステム」を構築した。このときは、最終製品中の使用済みペットボトルの割合は50%だったが、翌2012年には100%まで割合を高めることができた。

使用済みペットボトルから再びペットボトルを作るリサイクルを進めるには、質のいい使用済みペットボトルを数多く集める必要がある。このため、サントリーは、大阪市と連携し、ボトル回収に乗り出した。大阪市の「地域・事業者との連携による新たなペットボトル回収・リサイクルシステム」に参画。市内2つの地域で、10月の試行期間を経て、今月から回収を本格実施している。

多くの収集運搬車が回収を行っており非効率だ。東京・銀座で(写真:白井グループ提供)

一方、メーカーだけでなく、物流に携わる事業者にも、新たな方法を模索する動きがある。東京で、一般、産業廃棄物双方の収集運搬を行う「白井グループ」(本社・東京都足立区)の白井徹代表は、「独自のリサイクルに取り組みたい、というメーカーは増えています。

問題は、誰が使用済み製品を運ぶのか。現状、宅配業者も収集運搬業者も人手不足ですから」と訴える。事業所から出る廃棄物の場合、異なる業者がバラバラに動き、効率が悪く、コストも高いという。白井代表は「業者間で連携する仕組みを作りたい」と話している。

「試行」の行方

プラスチック製品からプラスチック製品、それもボトルからボトル、トレーからトレーというように、使用済み製品を再びもとの製品に戻していく新たな潮流。あるいは、メーカーと起業家が組んで開発中の、リユース容器入りの商品を流通させる新システム。こうした試みは根付いていくのか、単なる試行に終わってしまうのか。

複雑な法制度で成り立つ廃棄物・リサイクルの世界は、そう簡単には変わらない、という見方もあるだろう。しかし、持続可能な社会経済作りに詳しい蟹江憲史・慶応大学教授は「循環型社会に移行するには、柔軟な頭が必要。まず、どうすれば問題を解決できるか、考えることが出発点になる。それには、知識や現在の仕組みについての理解がないほうがいい場合もある」と指摘する。「まずやってみる」ことからしか、物事は始まらない。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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