「#Metoo立役者」が暴露した大手メディアの妨害 セクハラや性暴力の「もみ消し」は存在する
取材を割り当てた張本人のNBCの上司たちが、理由を与えずに取材にブレーキをかけ、やんわりと「このまま続けたら、仕事がなくなるよ」といったプレッシャーをかけ始めたのだ。その頃から自分が誰かに監視されていることに気づく。そして、多くの人たちが、「気をつけなさい」とささやくようになる。
ニューヨーカー誌の徹底したファクトチェック
それらはすべて、アメリカの有力者たちと強いつながりを持つワインスティーンが仕掛けていたことだった。ファローを監視していたのは、イスラエル諜報機関の元諜報員が作った「Black Cube(ブラック・キューブ)」というスパイ組織で、ワインスティーンが雇ったチームだったのだ。
不気味な存在に監視されているだけでなく、これまで信頼していた人たちからの裏切りにもあう。その1人が、セクシャルハラスメントや性暴力を受けた女性を弁護することで知られる「人権弁護士」のリサ・ブルームだ。
親身に相談に乗るふりをして被害者の情報を聞き出し、同時にワインスティーンのために働いていたのだ。また、ファローが尊敬し、この調査報道でもアドバイスを求めてきたNBCのマット・ラウアーやトム・ブロコウは、後にセクシャルハラスメントや性暴力で社内の複数の女性から告発された。
ファローにとって最初はただの仕事の1つでしかなかったのに、大きな勢力が一体になって潰そうとしたために、身の危険を感じても執着するようになったというのは皮肉なものだ。NBCが報道してくれないし、取材の許可も与えないので、ファローはこの調査をニューヨーカー誌に持ち込んだ。
それからのニューヨーカー誌の姿勢に、私は真のジャーナリズムへの尊敬を新たにした。ともかく、「ファクトチェック(事実の確認)」が徹底している。
ニューヨーク・タイムズ紙が同じテーマでスクープ記事を準備していることを知っていながらも、焦ってその前に出そうとはしないのだ。ニューヨーカー誌の記事でファローが「レイプ」という表現を使ったのも、訴えられても勝てる証拠があるとニューヨーカー誌が確信したうえでのことなのだ。
「Catch and Kill(キャッチ・アンド・キル)」とは、タブロイド紙がセクシャルハラスメントなどのスキャンダルでよく使う「捕まえて、抹殺する」手法のことらしい。
「ジャーナリスト」を称する者が被害者に接触し、証言を得る。だが記事にはしない。加害者である大物がタブロイド紙を通じて被害者の過去の異性関係やスキャンダルを掘り起こして大げさに報道し、人格攻撃を始める。そのうえで、社会的な制裁を受けて精神的にボロボロになっている被害者に示談金を与え、守秘義務契約(NDA)に署名させるのだ。トランプ大統領もこの手法をよく利用してきたことが書かれている。