ユヴァル・ノア・ハラリが警告する「データの罠」 所有権統制なければ権力と富はなお集中する

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土地と機械は影が薄くなり、21世紀の最も重要な資産はデータとなる(写真:metamorworks/iStock)
『サピエンス全史』が日本国内90万部、第2作の『ホモ・デウス』が同37万部となり、世界では著作の累計部数が2000万部を超える社会現象となっているユヴァル・ノア・ハラリ。最新の第3作『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』(以下『21Lessons』)では、「現在」に焦点を当て、自由、平等、コミュニティ、ナショナリズム、テロ、戦争、ポスト・トゥルース、教育、人生の意味など、われわれ人類が直面している21の重要課題を取り上げている。
ハラリがとりわけ力を入れて論じているのが、データの所有をめぐる問題である。私たちが日々、何気なく行っていることがいったい何を招くのか。ハラリが警鐘を鳴らしている新刊の「平等」の章から抜粋してお届けする。

もし、一握りのエリート層の手に富と権力が集中するのを防ぎたいのなら、データの所有権を統制することが肝心だ。古代には、土地はこの世で最も重要な資産であり、政治は土地を支配するための戦いで、あまりに多くの土地があまりに少数の手に集中したときには、社会は貴族と庶民に分かれた。

近代には機械と工場が土地よりも重要になり、政治闘争は、そうした必要不可欠な生産手段を支配することに焦点を合わせた。そして、あまりに多くの機械があまりに少数の手に集中したときには、社会は資本家階級と無産階級に分かれた。

なぜ巨大企業はデータ蓄積に価値を置くのか

それに対して21世紀の最も重要な資産はデータで、土地と機械はともにすっかり影が薄くなり、政治はデータの流れを支配するための戦いと化すだろう。もしデータがあまりに少数の手に集中すると、人類は異なる種に分かれることになる。

データの獲得競争はすでに始まっており、グーグルやフェイスブック、百度(バイドゥ)、騰訊(テンセント)といった巨大なデータ企業が先頭を走っている。これまでのところ、こうした巨大企業の多くは、「注意商人(attention merchant)」というビジネスモデルを採用しているようだ。彼らは無料の情報やサービスや娯楽を提供することで私たちの注意を惹き、その注意を広告主に転売する。

とはいえ巨大なデータ企業はおそらく、従来のどの「注意商人」よりもはるかに上を狙っている。彼らの真の事業は広告を売ることではまったくない。むしろ、私たちの注意を惹いて、私たちに関する厖大な量のデータを首尾良く蓄積することだ。そうしたデータはどんな広告収入よりも価値がある。私たちは彼らの顧客ではなく、製品なのだ。

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