「県別の最低賃金」はどう見ても矛盾だらけだ 「全国一律の最低賃金」は十分検討に値する

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各都道府県の最低賃金を設定するにあたり、企業の支払い能力をベースする決め方は、実例をいくつか使って検証すれば疑問が続出します。最低賃金は企業の支払い能力に配慮していると言われますが、数字を精査してみると、かなり表面的な支払い能力を基準にして決めているのではないかと思われるのです。

「最低賃金の引き上げ」が倒産につながる根拠はない

例えば、隣り合っている京都府と滋賀県の例を見てみましょう。京都府の最低賃金は909円です。隣の滋賀県は866円で、43円もの差があります。

『中小企業白書』の数字を見ると、1企業当たりの付加価値は、京都府が450万円で、滋賀県は395万円です。これだけを見ると、京都府の最低賃金が滋賀県より5%も高いのは、当然のように映るかもしれません。

しかし、よくよく精査すると、印象はずいぶん違ってきます。京都府の中堅企業の生産性は364万円ですが、滋賀県は376万円です。また、小規模事業者の生産性は、京都府の296万円に対して、滋賀県は324万円です。いずれも、滋賀県のほうが京都府より生産性が高いのです。

京セラや任天堂など、京都府には皆さんもよくご存じの、世界に冠たる大企業が何社も本社を構えています。これら京都府の大企業の生産性は704万円で、滋賀県の497万円を大きく上回っています。また、京都府では従業者の25.6%が大企業で働いているのに比べて、滋賀県は15.7%です。

つまり、京都府全体の生産性が高いのは、生産性が極めて高い大企業があるからで、これが唯一の理由です。

このように、京都府には生産性の高い大企業が多く、多くの人がこれらの大企業で働いているから、全体の生産性が高くなっているだけなのです。一方で、すでに紹介した通り、最低賃金に近い水準で多くの労働者を雇用している中小企業の生産性は、滋賀県より低いのです。

しかしながら、最低賃金は京都のほうが上です。最低賃金とあまり関係がない大企業が多いからといって、最低賃金が高くなるというのは、どうしても理解できません。しかも、滋賀県の平均所得は京都府の488万円より高い497万円なのです。

要するに、現行の最低賃金は、表面的な数字をもとに、感覚的に労使の力関係で決まっているだけで、実際に最低賃金の影響を受ける企業の実態をきちんと分析をして決めたものではない可能性が高いのです。

このような矛盾は随所で見られます。

来年の最低賃金を同じ790円に決めた自治体は、企業の生産性に差はあまりないはずですが、実際は様相が異なります。例えば、最低賃金の引き上げで最も影響を受けると言われる小規模事業者の生産性を比べてみると、最も低い宮崎県が237万円で、最も高い佐賀県の284万円と、47万円もの差があります。

逆に、小規模事業者の生産性はあまり変わらないのに、最低賃金に大きな差がある例もあります。例えば、和歌山県と佐賀県は、小規模事業者の生産性はほとんど同じですが、和歌山県の最低賃金は佐賀県より40円も高いです。同じように、岡山県の小規模事業者の生産性は314万円で、広島県の317万円とほとんど変わらないのに、最低賃金は広島の871円より38円も安い833円です。

こういった例は、安いアパートの県別の平均価格で検証しても、説明がつきません。

宮城県は小規模事業者の生産性が非常に高く355万円ですが、最低賃金が824円です。三重県は生産性が340万円なのに、最低賃金が873円です。

このように最低賃金は、最も影響を受けるであろう小規模事業者の生産性とは、ほぼ無関係に決まっているのが実態なのです。

では、いったい、最低賃金はどの要素と関連性が高いのでしょうか。いろいろ調べた結果、最低賃金と最も相関関係が強いのは県別の全体の生産性で、実に、相関係数は0.911という極めて高い数字でした。

次ページきちんとした分析に基づいているのか、きわめて疑問だ
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