「県別の最低賃金」はどう見ても矛盾だらけだ

「全国一律の最低賃金」は十分検討に値する

しかも、各県の現在の生産性と最低賃金は、循環的に相互に影響を及ぼしている部分もあるのです。

経営者は自社の商品やサービスの価格を決めるにあたって、コストをベースに考えます。一般的な企業の場合、最大のコストは人件費です。ですので、仮に労働者のコストが下がれば、商品の価格を下げることができます。

逆に、人件費が上がった場合、その分を吸収するためにとれる方法は、生産性を向上させるか、利益を減少させるか、単価の引き上げしかありません。海外では、最低賃金を引き上げた際には、この3つの方法を組み合わせて対応した例が多いようです。

企業の「支払い能力」をもとに最低賃金を決めるな

さきほど、中央最低賃金審議会は各都道府県の最低賃金を答申する際、その県の企業の支払い能力を勘案していると説明しましたが、このことに関して私は強い違和感を覚えています。

改めて言うまでもなく、企業の支払い能力というものは固定ではなく、いくらでも可変です。こんなことは誰でも知っている常識です。イノベーションを起こすことができれば、企業の支払い能力を激変させることも可能です。

人口が減り、需要が減っているから無理だという人がいるかもしれませんが、イノベーションを起こして需要を創出した例は、枚挙にいとまがありません。皆さんがお持ちのスマホはその最たる例です。

現状の支払い能力をベースに最低賃金を決めるというのは、地方企業に「イノベーションにトライするかどうかは、皆さんのご自由です」と、暗に現状維持を促しているのと同じです。人口が大きく減少するというのに、現状維持を促すというのは、確実に地方を衰退させるための政策だとしか言いようがありません。

思慮の浅い人は「最低賃金1000円でも、大変なんだ!」と言いますが、このように最低賃金を低く抑える行為が、ゆくゆくはどんな結果をもたらすか、まじめに考えてほしいとつくづく思います。

それはともかく、最低賃金の目安を決めるベースに現在の企業の支払い能力を使っていること自体が、中央最低賃金審議会の専門性が足りないことを白日の下にさらしてしまっています。これは、日本総研が「最低賃金引き上げをどう進めるべきか――諸外国の経験を踏まえた提案」で指摘している通りです。

世界でも最も大規模に、さらに最も速いスピードで人口が減る日本では、最低賃金の決定に大きな影響力をもつ中央最低賃金審議会は、世界最高レベルの専門性を持たなくてはいけないはずです。

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