安倍内閣、説明なき「トップダウン政治」の功罪 身内で決める政治が覆い隠す政策決定過程
安倍首相のやり方は、こうした伝統的な自民党の政治手法と性格を異にする。気心の知れた政治家や官僚を首相官邸の主要なポストに就けて、少人数の身内だけで話し合って重要な政策を決めていく。その過程での情報管理も徹底しているため、本来の担当省庁でさえほとんど関与することはない。
今回の自衛隊の中東派遣問題も、防衛省の幹部会で正式に提示されたのは4大臣会合の後であり、多くの幹部が会合後に初めて詳細を知ったという。
一昔前であればこうしたやり方に対して、まず自民党内から「独裁だ」などと強い不満や批判が出ただろう。しかし、自民党幹部からも部会や政務調査会からも異論や批判はほとんど出なくなった。かつては野党の役割も大きかったが、小政党に分散してしまった現状では追及に力がない。政策決定過程や政策の内容について国会の場でいくら問題点を指摘しても、簡単にかわされている。
霞が関は「単なる実施機関」に
霞が関の役割にも変化が起きている。ボトムアップ方式だと、各省の中堅官僚らが知恵を絞って政策を企画立案し、さまざまなプロセスを経て閣議決定などに持ち込んでいた。ところが今、政策は上から降りてくる。官僚たちが政策を創るのではなく、単なる実施機関になりつつある。むろん、首相官邸が決めた方針に異論をはさむことなど許されない話である。
こうした構図が「安倍一強」と呼ばれる実態なのだ。
やや性格が異なるが、北方領土問題の交渉方針の大きな転換も少数者による決定であり、それがいつの間にか既成事実化してしまったケースだ。日本政府の基本方針は「4島返還」だったが、安倍首相は昨年11月のプーチン大統領との会談の場で、「2島返還+α」を提起したとされている。それは表向き「56年宣言を基礎にして」という言葉に集約されている。この重要な転換がいつ、だれがどういう理由で決めたのか、そして、その後の交渉がどうなっているのかはまったく不明である。
誰にも文句を言われないで身内だけを相手に相談し、自分の思うように国を動かすことができるトップダウン方式の政策決定は、権力者にとって魅力的であることは言うまでもない。小泉純一郎首相もトップダウン方式で郵政民営化などを進めた。ただ、安倍首相の手法とはかなり異なっている。
小泉首相は「自民党を抵抗勢力だ」と批判し、政府内の「経済財政諮問会議」などの公的組織を使って、入念な議論を重ねて政策を形成していった。何が問題でどういう議論が行われているかという過程は、外部から見ることができた。
これに対し安倍首相の手法は、内閣官房長官、副長官、首相秘書官、首相補佐官、国家安全保障局長ら、極めて限られた人たちだけが関与し、その過程はほとんど明らかにされていない。
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