安倍内閣、説明なき「トップダウン政治」の功罪 身内で決める政治が覆い隠す政策決定過程

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安倍首相の手法にプラス面があるとすれば、変化の速い内外の情勢に迅速に対応できることだろう。また異論や批判が表面化しない分、政策遂行力が高まる。関係省庁や関係団体などの利害調整を最小限にできるため、政策がゆがめられることが少なくなり、合理性が高まるだろう。

これに対し長く続いて生きた自民党的ボトムアップ方式の政策決定は、各省や支持団体などの利害調整に時間がかかり、政策を迅速に決定できなかった。そして、各方面に配慮した結果、政策がゆがみ、しばしば合理性を欠いた。何よりも問題なのは、少なからぬ議員が利益誘導に走り、関係者に見返りを要求するなど腐敗の温床になりがちだった点だ。

それでも、安倍首相流のトップダウン方式にはやはり問題点の方が多い。今回の自衛隊派遣指示問題もそうだが、なぜ、いま自衛隊派遣なのか、具体的に何をするのかなど、肝心なことがほとんど説明されないまま、物事が決められていく。

政策決定過程の議論がまったく表に出ない

首相官邸の少数の人間だけで政策を決めているため、政策決定過程の議論がまったくと言っていいほど表に出ない。つまり、「密室の決定」になっているのだ。そして公表されるのは都合のいい部分、問題のない部分だけに整理されてしまう。政策についての詳細な説明もないため、その政策がうまくいったのかどうかの評価もしにくくなっている。

情報を開示すればするほど、さまざまな立場の組織や人たちから異論や批判が出て円滑に政策を決めにくくなる。ゆえに安倍首相の手法は、政府内の議論はもちろん、与党内の議論も、国会での十分な議論もなされていない。これは長期政権のなせるわざであり、これまでの日本政治に例のない、どちらかと言えば権威主義的国家に近い形での政策決定となっている。

こうした点はマスコミでしばしば「官邸官僚」「側近政治」などと表現されている。しかし、こうしたシステムは法律などによって制度化されておらず、非公式な手法によって行われていることが問題であろう。安倍首相の個人的人間関係が色濃く反映された人事によって、首相官邸に政治家や官僚が集められ、非公式な会議、打ち合わせなどで物事が実質的に決められている。

民主主義の基本原則は、多少時間がかかっても多くの人が意見を言い、政治が利害を調整し、合意形成していくことにある。時にそれが不毛な議論であることもある。しかし、そうした時間と努力を積み重ねて初めて国民が納得する。そういう観点から見ると、安倍首相の手法は国民の視野に入りにくい、密室的な政治だと言わざるを得ない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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