投票率8割の国が「民主主義の危機」を警戒の訳 スウェーデン取材で見えた日本に通じる課題
次世代に伝えたいこととして、ある人は「決して忘れないで」「語り継いでほしい」と述べ、別の人は「また同じことが起きるから気をつけて」と注意喚起する。中には「復讐はしないで」というものもあった。
特別展で最も目を引いたのが、3Dホログラムで描かれるホロコーストを生き延びた人と「会話ができる」コーナーだ。例えば「どうやって生き残ったのですか?」「家族について教えてください」「戦争が終わったとき、どう思いましたか」といった質問をすると、答えてくれる。
私はホロコースト関係の本をよく読んでおり、事実関係はおおむね知っていたが、当事者と話している感覚を得られる取り組みは貴重だと思った。知識ではなく感情に直接訴えかけてくるから、繰り返してはいけない、という思いは強くなる。ちなみにこの展示は、南カリフォルニア大学にスティーブン・スピルバーグが創設したショア財団とスウェーデン国立歴史博物館の共同事業だ。
歴史とその解釈をよりよい民主主義につなげる意義
常設展示を一通り見て回り、この博物館にはわかりやすく共感できる理念がある、と感じた。それは先述したメッセージの続きに表れている。そこには「歴史を学ぶことの意義は、社会は変えられるとわかること」と書かれていた。実はこの博物館は「国立」の「歴史博物館」であるが、同国の輝かしい歴史を記したものではない。むしろ、歴史の暗い面を正面から見ようとしている。
例えば、18世紀半ばから1930年代、スウェーデンから多くの人がアメリカ合衆国に移民した。当時、スウェーデンは貧しく、仕事を求めてシカゴなどに移住した人がたくさんいたからだ。それが半世紀で世界でも有数の豊かな国になり、移民については「受け入れ国」に転じている。これをプラスに評価しようという明確な意志を展示や説明から読み取れる。
さらに、歴史の解釈が時代により変化することも明示されている。常設展示では、かつて英雄視されていた国王にも暴君の一面があったことや、歴史的な出来事を記した絵画をファクトの観点から検証できるコーナーがあった。
歴史博物館は、単に昔のものを展示するのにとどまらず、歴史修正主義やフェイクニュースといった現代の問題を批判的に検証する力を養える場所になっていた。
このような性質の博物館を無料公開しているところに、歴史とその解釈をよりよい民主主義につなげようというスウェーデンの強い意志を見て取ることができる。
歴史の解釈は時代の影響を受ける、つまりバイアスから自由ではないことを肝に銘じなくてはいけない。私たちがいかなる未来を作りたいのか、現状と理想のギャップはどのくらいあるのか正面から見る勇気を持ちたい。
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