投票率8割の国が「民主主義の危機」を警戒の訳 スウェーデン取材で見えた日本に通じる課題
出発日の9月10日、成田空港は前日の台風で足止めされた人々で大混雑していた。私も台風の影響で、予定を1日遅らせてストックホルムのアーランダ空港へ向かった。空港から電気自動車のタクシーに乗って30分。夜8時頃、レストランに到着した。
集まっていたのは、私を含む11カ国から来た新聞記者などのメディア関係者。皆、政府系機関スウェーディッシュ・インスティテュートが主催するプログラムの参加者だ。約1週間ストックホルムに滞在し、スウェーデンの民主主義やイノベーションに関する会議に参加・取材するとともに、専門家によるレクチャーを受ける。
投票率の高いスウェーデンすら感じる民主主義の危機
この夕食会には、国会議員オーレ・ウェストバーグ議員が出席していた。ウェストバーグ議員はジャーナリスト、外交官を経て政治家に転身した経歴を持ち、海外からスウェーデンを訪れた私たちにわかりやすく、同国の政治・社会・経済情勢を話してくれた。
「レンゲは投票率に興味があるのよね」。テーブルに着くとすぐ、プログラム責任者のリビア・ポデスタさんが声をかけてくれて本題に入った。スウェーデン政府のウェブサイトによれば、2018年の選挙では投票率が87.1%、「1950年代から、投票率は80%を下回ったことがない」という。非常に高い投票率だ。
日本では、直近の7月21日に実施された参議院議員選挙の投票率が48.8%(総務省調べ)だったことを思い出しながら尋ねた。「日本も民主主義国家ですが、投票率は3~5割弱と低い。どうしたらもっと多くの人が政治に関心を持って、選挙に参加するようになるか知りたい」。するとウェストバーグ議員から、こんな答えが返ってきた。
「確かにスウェーデンは投票率が高いが、近年は社会経済階層によって差が開いてきている。決して楽観視はできない」
“segregation by SES(社会経済階層による分断)”という言葉を議員は使っていた。高福祉国家のスウェーデンであっても、教育水準や所得、言語や社会への定着度合いにより投票率には差があることを意味する。投票率が9割近くても、安心していないようだ。
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