「根拠なき株価上昇」を正当化するヤバイ市場 企業収益も世界情勢も暗くなるばかりだ

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さて、これまで述べてきたことも含め、主要国の経済状況やさまざまな政治等のリスク(ブレクジットの行方、香港情勢、トルコのシリア北部のクルド人地区への侵攻やイランのタンカー爆発など中東情勢)、企業収益の悪化など、投資環境は暗さを増している。それに対して、株価ばかりが堅調に推移している。

投資環境が暗いと判断している点(どんどん悪化していると考えなくても、少なくとも景気減速色が強い)については、筆者に対する異論はあまり聞かない。ではなぜそうした投資環境の不振にもかかわらず株価が下落しないのかと言えば、筆者は株価が誤った楽観にとらわれており、いずれ主要国の株価が大きく実態にさや寄せするだろう(株価が大きく下落するだろう)と予想している。

「株価上昇を正当化する心理」に危うさ

こうした筆者の見解に対しては、もちろん異論が多い。そうした異論のなかで、最も多い主張は、「足元の株価が堅調なのは、悪材料は全て織り込んでいるからだ」というものだ。

その主張を踏まえると「悪材料を織り込み切ってしまっているのだから、今後の株価は上がる」、という見通しになる。ただこの考え方は、「株価が実態と乖離していることを、どのように正当化できるか」→「正当化できる理屈を考え出す」→「その理屈に沿って株価の先行きを考える」というロジックだ。つまり、これまで株価が上がったのだから、今後も上がるだろう、と言っていることに等しい。

まるで平成バブルの辺りに、「企業が保有する不動産の価格が上がっているから、株価が上がってよい」という意味合いで、「Qレシオ」がひねりだされた時の心理と似たものを感じる。もちろん、今の日米等の株価水準は、バブルと呼ぶには程遠い状況だが、そうした株価上昇を正当化しようという心理は、バブルとも呼べる事態ではないだろうか。

今の株価の堅調さは、暗闇の中を崖に向かって歩いているようだ。筆者はもっと早く崖から落ちると見込んでいたが、崖はもう少し先にあるらしい。きっと崖から落ちるまでは、どこに崖があるのかは、誰にもわからないのだろう。

少なくとも今週はまだ崖から落ちるには早いのかもしれない。ただ、米中間の一部合意をはやした楽観は、すぐに剥げ落ちてもおかしくはない。そのため、今週の日経平均株価については、2万1300~2万2200円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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