山田孝之「どんな役でも爪痕残す」怪優の魅力 「全裸監督」怪演につながる迷走期との戦い

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闇金に手を出す人々が怠け者やうそつきなので、山田の犯罪的高利貸しが実は「人助け」や「生き直し」につながる一面もある、深いドラマだった。山田は冷徹さやカリスマ性を20代で完璧に醸し出した。目と肝が据わったアウトローっぷりには、単なる無表情とは違う、静かなる威厳があった一方で、真逆の作品へ。

低予算コメディー「勇者ヨシヒコと魔王の城」(テレ東・2011)に出演。ロールプレイングゲームの世界観を実写にして全力でふざけるドラマだったが、まじめで頼りない主人公・ヨシヒコを低体温で演じた。顔芸・コント・歌劇とさまざまな要素を詰め込んだエンタメ作で、山田は万能だと改めて思い知らされた。「濃いめ」な社会派悪党と「軽め」な悪ふざけコメディーと盤石の2本柱で、山田孝之が世の中に浸透していく。

「山田無双」と言っても過言ではない

もうこの頃には、登場するだけで空気を一変させ、主役でなくても爪跡を確実に残す「怪優」と化している。「信長協奏曲」(フジ・2014)は、「月9イケメン戦国ファンタジー」と軽い印象の作品だったが、羽柴秀吉役の山田1人だけが物語に緊迫感を与えた。「ひとり大河」状態である。

また、映画『悪の教典』では万引きした女子生徒を脅して、肉体関係を強要する卑劣な教師を演じた。登場シーンはほんのわずかだが、堂々たるクズっぷり。同じく教師役の吹越満とともに、記憶に残る名脇役だった。

強烈だったのは、映画『その夜の侍』(主演は堺雅人)。1ミリも反省しない加害者役を演じたのだが、品性下劣なクズ男に震撼した。声をややハスキーにして、知性の欠片もない暴力的な男を体現。昨今、一般人のあおり運転や恫喝などの動画がSNSで拡散されるが、まさにああいう感じ。口調や声音で知性の欠如を表現できるなんて! 同世代でここまで多種の人物を演じ分けることができる俳優はいるだろうか。山田無双である。

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