オンワード「大量閉店」を招いたしがらみは何か EC強化やデジタル化推進でも課題は大きい

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振り返ると、オンワードは百貨店の発展とともに業容を拡大してきた。同社は紳士服の量産体制を整えた1950年代にさらなる拡販をもくろみ、当時としては画期的な「委託販売」を思いつく。いったん商品を百貨店に買い取ってもらうが、売れ残った商品をオンワードが引き取る仕組みで、これが発展して現在の百貨店の主流である「消化仕入れ」につながった。

百貨店側に在庫リスクがないこの仕組みは、通常の買い取り販売に比べて、数多くの商品を百貨店の棚に並べてもらうことができる。高度経済成長期の大量販売時代に、この手法はオンワード、百貨店双方にプラスの効果をもたらした。

目立つ消化仕入れのデメリット

しかし、モノが売れなくなった昨今は、消化仕入れのデメリットが目立つようになってきた。百貨店側は、アパレルに仕入れと販売を任せたため、消費者の購買行動の変化に柔軟に対応できなくなった。百貨店の衣類販売が減少するとともに、アパレル各社も苦しい経営を強いられるようになった。

アパレル各社がEC強化を打ち出そうにも、「店舗売上げ至上主義」である百貨店の売り場では、ECサイトへの顧客誘導や、ECで注文して店頭で受け取るといった連携をとれないケースが多かった。

百貨店側の事情が壁となってデジタル化を進められないケースも相次ぐ。オンワードグループ傘下のオンワード樫山では昨年、全商品にRFID(ICタグ)を導入し、物流倉庫での入・出荷作業の効率化に向けた活用を始めた。だが、百貨店との調整が必要となり、店頭での在庫管理やレジ業務への展開は実現できていない。

百貨店との取引形態がデジタル戦略の足かせになるからとはいえ、百貨店以外のリアル店舗開拓には今さら感がある。また、オンワードの大半のブランドは、若い世代にとって高額な印象もあり、EC強化にあたって価格戦略をどう見直していくかも問われることになる。

「サプライチェーン全体のデジタル化により、お客様に支持される商品の開発を進める」。保元社長は決算説明会でこう語り、企画から販売までの各段階でデジタルの活用を急ぐ必要性を強調した。今回の構造改革でオンワードが再成長に向けて一歩を踏み出したことは間違いないが、百貨店の売り上げに依存してきた名門アパレルの先行きは、相当な苦労を伴うものになりそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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