オンワード「大量閉店」を招いたしがらみは何か EC強化やデジタル化推進でも課題は大きい

拡大
縮小

そうした中でも健闘していたのが、自社ECサイト「オンワード・クローゼット」を中心としたEC事業だ。2009年12月にオンワード・クローゼットを開設し、自社ブランド商品のネット販売を開始。経済産業省出身の保元社長の肝いり施策として進め、2019年2月期のEC売上高は255億円(前期比26%増)と、会社全体の約1割を稼ぐまでの存在になった。

店舗閉鎖などの構造改革の詳細を発表するオンワードの保元道宣社長(記者撮影)

今回の構造改革で実店舗の展開規模は縮小させ、この先は経営資源の大部分をECのさらなる拡大に振り向ける方針だ。

「23区」や「自由区」といったオンワードの基幹ブランドの店舗は、一部の路面店などを除き、大半を百貨店に集中させる。同社は今後、百貨店側と店舗撤退の交渉を行い、浮いた人員をデジタル分野に再配置するなどして、来期・再来期まで集中的に改革を進める構えだ。これまでEC施策は専門の事業本部で一元的に担っていたが、今年からは「23区」などブランドごとにEC担当の組織を設置し、ECでの販売も意識した商品企画を強化する。国内外のデジタル分野での有力企業との連携も検討しているという。

こういった強化策により、EC売上高を2021年度に500億円、将来的に1000億円規模へと一気に拡大する計画を掲げる。

百貨店以外に店舗を拡大できなかった

オンワードはデジタル化の推進にあたって「自社サイト中心主義」を常々掲げており、現在もEC売上高の約8割をオンワード・クローゼット経由が占める。多数のブランドが出店し、外部事業者が運営するECモールは顧客の詳細なデータを入手できないのに対し、自社サイトは顧客の購買動向をリアルタイムで蓄積・分析できる。

自社サイトの売り上げをさらに増やすことで、事業規模の拡大だけでなく、顧客の需要に合った商品企画や在庫管理の精度向上につなげる狙いは大きい。だが、もくろみ通りECを拡大し続けられるかどうかは、現時点では不透明だ。

今後の売り上げ増に向けては、百貨店で取り込みきれなかった20~30代の若い顧客をいかに開拓できるかがカギを握る。これらの世代は中高年層と比べて「オンワード」の認知度もそこまで高くない。価格帯の垣根なく多数のブランドの商品を比較購買できるネット上で顧客をつかむためには、価格競争力や強力なブランドイメージが必要となる。

ただ、オンワードは「23区」をはじめとする主力ブランドの多くが百貨店に店舗を構えている。若い世代が頻繁に足を運ぶような駅ビルや商業施設内の店舗はごくわずかだ。商品を実際に手に取れないネット上だけで、若い層に向けてブランドイメージを浸透させるには限界もある。業界関係者は、「アパレルECは(商品を見たり試着したりできる)リアル店舗を構えていることが前提となる。オンワードの問題は、これまで百貨店以外にリアル店舗を広げられなかったことだ」と指摘する。

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