トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者

ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石

トランプ大統領はウクライナ疑惑で全面対決の姿勢だ(写真:REUTERS/Yuri Gripas)

9月末からアメリカの首都ワシントンで吹き荒れているトランプ大統領とウクライナをめぐる弾劾調査の嵐はいっこうに勢いが弱まらない。トランプ大統領は「政権転覆を狙ったクーデターだ」として、10月8日、下院民主党が求める文書提出や証言などを拒否、全面対決に出た。対決が続く限り、民主党が多数派を占める下院での大統領弾劾は不可避だ。

トランプ政権は弾劾調査を、民主党が始めた「党派対立」、あるいは国家に従わない官僚軍団「闇の国家(ディープステート)」によるものだ、と訴えて、共和党の支持を固めると同時に、他の話題で国民の気を散らすことで、この苦境を乗り越えようとしている。今のところ、この戦略は効果を発揮し、議会共和党の多くはトランプ政権と歩調を合わせているため、上院の雰囲気は罷免には程遠く、大統領の座は揺るぎない。

現在、大統領と共和党の攻撃の矛先は、事の発端であり、いまだ正体不明のCIA(中央情報局)職員とされる内部告発者に向けられている。

トランプ氏の攻撃の的となる内部告発者

前回、現職大統領の行為について内部告発があり、弾劾手続きが行われたのは、1998年のビル・クリントン元大統領(民主党)の不倫スキャンダルであった。大統領の不倫相手モニカ・ルインスキー元ホワイトハウスインターンとの電話を密かに録音していた元ホワイトハウス職員のリンダ・トリップ氏が、録音テープをケネス・スター独立検察官(当時)に提出した。スター独立検察官はその録音テープを大統領弾劾条項の1つとなる偽証罪の証拠として利用するに至った。

クリントン元大統領が、下院で弾劾されるも、上院で罷免を逃れた背景には、自らの弾劾手続きは「党派対立」によるものだと、民主党支持者、国民に訴えたことが大きい。当時は共和党が上下両院で過半数を握っていたものの、上院では3分の2に達していなかった。下院で弾劾されることは目に見えていたが、上院で民主党が団結しているかぎり、罷免を回避できるのは確実であった。党派対立との訴えは功を奏し、クリントン元大統領は政権を存続することができた。

しかし、党派対立が強調される過程で犠牲となったのが、アメリカの民主国家を支えてきた内部告発制度への国民の信頼だ。内部告発者のトリップ氏は無所属として登録し、共和党にも民主党にも献金したことがなかった。クリントン政権や民主党は党派対立と位置付け、共和党が民主党大統領を追い出す陰謀に加担したとして内部告発者のトリップ氏に「右翼」の烙印を押した。

トランプ政権もウクライナ疑惑を党派対立の一環と位置づけている。その結果、政権や共和党の内部告発者に対する強い批判が目立つ。なお、1人目の内部告発者については、情報当局の監察官に内部告発する前に民主党のアダム・シフ下院情報特別委員長の側近に接触していたことが判明した。そのため、「ウクライナ疑惑」は民主党が当初から内部告発者と共謀して党派的に動いたものだと、共和党は批判している。

10月6日のフォックスニュースにおいて、ホワイトハウスのスティーブン・ミラー上級顧問は、内部告発者を「ディープステートの工作員」と呼び、トランプ政権発足以降に選挙で選ばれていない政府職員がトランプ大統領を失脚させようと企んでいることの一環である、と主張した。

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