トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石
世界最強のアメリカ大統領を内部告発することは容易ではない。特にCIAのような情報当局に勤務する政府職員の内部告発は、現行法では完全に守られていない。他の政府機関の職員よりもさらに難易度が高いのだ。
今回、内部告発者のCIA職員は2つのルートで大統領の行為について告発している。1つがCIA法律顧問局を通じた告発だ。
匿名を望むCIA職員は、同僚を通じてコートニー・エルウッドCIA首席弁護士に報告。その後、規則に基づきエルウッド首席弁護士が、ホワイトハウスと司法省安全保障部門の首席弁護士と、大統領の違法行為の疑いについて電話で協議。数日後にはウィリアム・バー司法長官にも共有された。だが、司法省はその告発を実質握り潰した。
本来、司法省は法律に基づき党派を意識せずに判断を下すべきである。だが、大統領に指名された司法長官は党派的となりがちであり、大統領あるいは政権と自らに不都合なことをしないことは想像できる。リチャード・ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件当時の司法長官も同様に党派的であった。
1つ目の告発ルートが機能しないことを察知した内部告発者は、直接、情報当局の監察官に告発した。告発を受けた情報当局のマイケル・アトキンソン監察官は国家情報長官(DNI)室に報告。報告を受けたジョセフ・マグワイア国家情報長官代行は、大統領に関わる話であることから、司法省と協議した。司法省はまたしても、何も問題がないとDNIに返答した。
しかし、法律では監察官とDNIの間で合意に至らなかった案件について、監察官は議会にその存在を通知する義務がある。そのため、監察官は下院情報特別委員会に内部告発の存在について通知し、それによってシフ下院情報特別委員長が内部告発書の提出を求め召喚状を出すに至った。
民主党が多数派の議会下院が関与することで、大統領府を牽制する3権分立の抑制と均衡が機能して、内部告発は世に知れ渡ることとなった。アトキンソン監察官はトランプ大統領によって指名された人物だ。もしアトキンソン監察官がトランプ大統領への忠誠心から党派的に内部告発を自らの手で握り潰し議会に通知していなければ、内部告発は今頃、闇に葬られていたであろう。
内部告発制度はアメリカ建国以来の伝統
内部告発者を守る法律を世界で初めて制定したのはアメリカだ。内部告発制度は民主国家のアメリカを象徴するものであり、その成り立ちはアメリカ建国の頃までさかのぼる。
独立戦争の最中、1777年にエセック・ホプキンズ大陸海軍司令官がイギリス人捕虜に対して行った虐待行為について部下が告発し、司令官解任に至った。その後、ホプキンズ元司令官は同氏と同じロードアイランド州出身の部下で内部告発を行った海軍将校サミュエル・ショー氏とリチャード・マーベン氏の2人を解任に追いやり告訴するなど報復。
だが、現在の議会の前身である「大陸会議」が介入して内部告発者を守った。この事件を契機に1778年、大陸会議は内部告発者を保護する法律を全会一致で制定するに至った。ホプキンズ司令官は、兄がロードアイランド州知事を務め、1776年の独立宣言にも署名したスティーブン・ホプキンズであり、政治的影響力のある一族の出身だった。だが、国民を代表する大陸会議は弱者を守ったのだ。
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