道路や橋など社会資本の老朽化は大きな問題だ 災害に強い設備にするには更新費用も莫大に

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社会資本を日々使用可能な状態に保つには、毎年相応の維持や補修を行う必要がある。さらに、何十年かに一度は大規模な改修工事を行ったり、既存の施設を取り壊して新しい施設を建設する必要もある。前者は維持・補修費として毎年支出されるので、はっきりと目に見える。だが、後者の場合は、数十年たち、大工事が必要な老朽化が誰の眼にも明らかにならないと、はっきりと認識されにくい。

国民経済計算(GDP統計)では、社会資本を初めとした固定資産の老朽化、陳腐化による価値の低下を反映するために、固定資本減耗という項目を設けている。企業会計における減価償却費に相当する。毎年実際に支出が行われるわけではないが、将来施設を再度建設するために必要となる費用をそれぞれの設備の耐用年数に応じて毎年計上するのである。

実はGDP(国内総生産)自体は企業の生産設備や住宅、社会資本などの固定資本減耗を控除する前の数字である。スティグリッツなども指摘しているように、経済学的には固定資本減耗を控除したNDP(国内純生産)を見るのが正しい(ジョセフ・E. スティグリッツ他著『暮らしの質を測る―経済成長率を超える幸福度指標の提案』〈金融財政事情研究会2012年刊〉)。

しかし、固定資本減耗は現実に企業や政府の毎年の支出として発生する負担ではないうえ、推計上さまざまな問題もあって、あまり注目されることはない。われわれが長期的な経済の問題よりも、短期的な景気変動に目を奪われがちなことにも原因があるだろう。

大規模改修費の積み立てをしていない

固定資本減耗は毎年大きく変動するものではない。毎年の成長率などの経済変動を見るだけであれば、GDPを使ってもNDPを使っても大きな差はないので、わざわざ推計の困難な固定資本減耗を利用する意義は大きくない。しかし長期的には、固定資本減耗の金額は経済活動の持続可能性などの点で重要な意味を持つことになる。

日本の政府部門(一般政府)の固定資本減耗を見ると、保有する固定資産の約3%程度であり、社会資本が蓄積されてきたことを反映して、緩やかだが増加傾向を続けている。財政の状況が深刻なこともあって、2000年度に入ってから公共事業費(一般政府の総固定資本形成)は大幅に減少している。そのため、固定資本減耗と公的固定資本形成の差額は縮小し、2000年代半ばには固定資本減耗は公的固定資本形成の約9割に達している。

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