テリー・ゴウが台湾のトランプになり損ねた訳 「常勝将軍」を撤退に追い込んだ2つの可能性

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中国で十万人規模の従業員を有する巨大工場をいくつも経営するホンハイを育てた郭台銘氏に対しては、「親中」への懸念は常に指摘されてきた。メディアのインタビューで郭台銘氏は「自分が号令すれば明日にでも中国から撤退することができる」と強がってみせることもあった。

だが、すでに経営者の第一線から退いているとはいえ、現在もホンハイ取締役であり、最大株主でもある郭台銘氏が、米中貿易戦争が起きているこの微妙な時期に、中国側を本気で怒らせることを望むはずはない。

また、どちらも国民党系候補といえる郭台銘氏と韓国瑜氏がともに蔡英文氏に敗れてしまったら、敗北の「戦犯」の汚名を着せられたリスクもあった。国民党の馬英九元総統ら中国と近い有力者の説得もあったとされる。

選挙に嫌気がさした可能性

だが、国民党の候補・韓国瑜氏の人気はここ数カ月、相次ぐ失言やスキャンダルによって急失速しており、総統選レースでも一対一の世論調査では蔡英文氏に10~15%の差をつけられている。韓国瑜氏よりも郭台銘氏の方が勝つ可能性があったのは確かだ。

そして、韓国瑜氏と関係が悪い郭台銘氏の支持層が、不出馬を受けても韓国瑜氏にこぞって票を投じるとは考えにくい。その意味で、中国の圧力が決定的に影響したかどうかについては解明が待たれる余地も少なくない。

もう一つ考えられる理由は、利益合理性に基づく経済と違って、曖昧模糊とした世論や複雑極まりない政界を相手にする選挙そのものに嫌気がさした可能性だ。その点を、郭台銘氏の心理を深夜の声明文から読み解いてみたい。

 私の総統立候補への初志は、台湾社会を経済発展に導きたかったからだが、選挙戦に身を投じて以来、一部の政治家が私利私欲のために格差をあげつらい、恨みや対立をあおって、ポピュリズムを行なっていた。
これらのことは、私が義のために責任を負うことで根絶できるのか。あるいは、私が諦めれば、元に戻すことができるのか。いかなる人の説得や影響ではなく、私自身の再三の思考の末、社会が国家の指導者を選ぶ時、理性的な思考や政策面の討論に回帰できるよう、私は2020年の署名総統立候補を取りやめることにした。
私の出馬を期待していた友人たちに深く頭を下げて、最大の誠意をもって謝罪したい。「申し訳ありません、皆さんを失望させてしまいました」と。
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