2020年大統領選で民主党候補が苦境にあるわけ 通商政策をめぐる2極化にどう対処するのか

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以上のように民主党大統領候補は貿易政策でトランプ大統領と差別化を図るのは容易ではない。だが、今年に入ってトランプ政権の通商政策が経済に悪影響を与える懸念が高まっており、攻撃のチャンスが到来している。

2018年以降、アメリカの株式市場はボラティリティを増している。世界経済の成長鈍化や景気刺激策の効果減退なども影響しているが、トランプ大統領の通商政策もボラティリティを高めている要因だ。アメリカ経済は足元では堅調に推移するものの、FRB(連邦準備理事会)も通商政策が経済の不確実性を高め、景気に悪影響をもたらしている点を認めている。

ラストベルト地域を民主党候補が奪還するには、対中政策など通商政策で強硬姿勢を見せる一方、トランプ大統領とは異なる新たな解決策を提示する必要があろう。GMの全米自動車労働組合(UAW)が12年ぶりにストライキを起こすなど、労働者にとってネガティブな環境が生じていることを民主党大統領候補は利用する絶好の機会に恵まれている。民主党候補はトランプ大統領とは異なる交渉手法を採用し、より中長期的な計画に基づく一貫性のある通商政策を説明し、労組への支援を約束することなどが有効策だ。

だが、現在、先頭集団のバイデン、ウォーレン、サンダースをはじめ民主党大統領候補の多くはラストベルト地域ではなく、アイオワ州やニューハンプシャー州など民主党予備選の序盤戦に焦点をあてている。9月22日、バイデンはカンザスシティ、ウォーレンはデトロイト市のGMストライキにそれぞれ参加し労働者保護を訴えたが、現時点では、本選に向けた準備まで民主党候補には余裕がない。

トランプ大統領と異なる対中強硬策を提示できるか

大統領選まではまだ約13カ月が残されており、今後の経済情勢や地政学リスク、そしてトランプ大統領の弾劾の行方次第などで選挙戦にはさまざまな展開がありうる。トランプ政権下、経済は堅調に推移し、失業率が約半世紀ぶりの水準まで低下し、消費者信頼感指数は高い数値で推移してきた。だが、歴代政権とは違い、堅調に推移する経済は大統領の支持率上昇には結びつかず、トランプ大統領の支持率は40%台で頭打ちとなってきた。

経済とトランプ大統領の支持率に相関関係が見えないことから、今日の2極化社会では経済情勢の重要性は低いとの見方もある。だが、これまで好調なアメリカ経済を自らの実績としてアピールしてきた実業界出身のトランプ大統領にとって景気や株価は重要だ。トランプ大統領の経済政策に期待し他の政策には目をつぶって大統領を支持してきた一部の中道派は、景気の減速によって、離れていくかもしれない。経済指標が好転することでトランプ大統領の支持率は上昇しないとしても、悪化で支持率が下落する可能性はあろう。

ただ、現職大統領を破るのは容易ではない。今後、民主党大統領候補はアメリカの成長鈍化見通しや金融市場の乱高下などを、トランプ大統領の計画性に欠け、かつ、強硬な通商政策と結び付けて批判するだろう。だが、一方で、中国の不公正貿易慣行など超党派で懸念される通商問題については他の対策を打ち出して強硬姿勢をアピールするといった難しい舵取りを迫られている。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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