50年強「ミシュラン三つ星」取り続ける店の哲学

ポール・ボキューズの総料理に聞く

――みなさん、レストラン ポール・ボキューズのスペシャリテを楽しみにいらっしゃるんですね。

そうですね。レストラン ポール・ボキューズ以外の有名シェフのスペシャリテは?と聞かれて、すぐに思い浮かびますか? それが私の答えなんです。われわれのレストランには、世界中の人々が「この一皿が食べたい」と集まってくる。若いゲストが「父親が『フェルナン・ポワンの舌平目』がおいしいと言っていたから食べたい」とやってくるのです。おそらくこんなレストランはこの時代に他にないでしょう。誰も真似ができないことなのです。

スペシャリテ3:「1975年にエリゼ宮にてV.G.Eに捧げたトリュフのスープ」。ボキューズ氏が、ヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領からレジオン・ドヌール勲章を受勲した際に午餐会で提供した料理。400名同時にサーブするという難題を、日本のお椀をヒントにパイで蓋をすることで熱いスープを提供した。45年経った今でも、これを目当てに世界中からゲストがやってくる一番の人気メニュー。

50年以上三つ星をとり続けている意味

――50年以上三つ星を獲得しているレストランの総料理長として、その星を維持しつづけるプレッシャーはありますか?

プレッシャーはあります。むしろ、それがすべてです。私は今まで三つ星レストランばかりで経験を積みました。ミシュランの三つ星を気にしなかったことは一度もありません。50年以上三つ星をキープしているのは、レストラン ポール・ボキューズただ一軒だけなのです。ムッシュポールは、ほかにも財団やブラッスリーなども残しました。レストランのブランドとしてここまで広く成功している例はほかにはないと自負しています。フランスの小学校の教科書にもポール・ボキューズは登場しますから。

このプレシャーはポジティブな面で原動力になっています。これがないと続けられないでしょう。毎朝チームでブリーフィングをするときに「私たちはプロです。プロとしてデモンストレーションをする、それが仕事なのです」と必ず声をかけます。外科医が完璧な手術をしないといけないのと同様、完璧な料理をつくらなければならないのです。

――ミュレールさんが思う、レストラン ポール・ボキューズの魅力とはなんですか?

この店はね、不思議なことが起こる魔法にかけられたレストラン。世界中からいらっしゃるどのゲストも皆満足されて帰ります。料理、サービス、すべてにおいて口では説明できない「なにか特別なもの」が確実にあるのです。皆、それを楽しみに何度も足を運ばれる。美食の殿堂であり、美食の魂が宿る場所なのです。

クリストフ・ミュレール/1971年、フランス・アルザス生まれ。料理人の世界に憧れ、14歳のときにアルザスの三ツ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」のポール・エーベルラン氏の下で修業を始める。17歳からポール・ボキューズ氏に師事。その後、「タイユヴァン」、首相官邸での首相付き料理人などを経て、1995年に再び「ポール・ボキューズ」に戻る。2000年、史上最年少でM.O.F.(フランス国家最優秀職人賞)を受章する。現在は「ポール・ボキューズ」グループ料理部門の最高責任者を務める。ボキューズ氏の後継者として、氏が築き上げたフランス料理の哲学を守り続ける(ヒトサラ編集部提供)

――昔とは格段に変化の速い時代。シェフが考える未来の食、そして未来のレストラン ポール・ボキューズについての考えを教えてください。

フランスにおける一般的な食生活、という意味では、今の時代食べすぎなのではないかと思います。また、食生活が単調になっていると思います。健康のためにはより食べる量を減らして、食べるものに注意を払う必要がありますね。

未来の私たちのレストランには、ムッシュポールの哲学をしっかりと継承していくことが大切だと考えています。それは、料理のレシピや技術だけではありません。たとえば、ムッシュポールは、物や食材をとても大切にする人でした。壊れない限り新しい調理機器は買わなかった。また、まかないで誰かがパンを残したことがありました。そのときに「これは誰のパン?」と聞いた。「僕のです」と答えた人に、「全部食べなさい」と声をかけた。パンの端切れ一つでも無駄にしない。そうした考え方を含めたすべてがレストラン ポール・ボキューズなのです。ムッシュポールの亡き今、私たちは彼の哲学を守る”門番”(ガーディアン)なのです。

(執筆:山路美佐・ヒトサラ副編集長)

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