「愛玩子」と「搾取子」をつくるゆがんだ親の心理 兄弟格差をつけることに何の意味があるのか

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姉は大学卒業後、一流企業として知られる商社に総合職として就職しました。母は親戚中に電話をかけ、自慢したものです。私も大学を出て、それなりに名の通った企業に就職したのですが、母の関心は相変わらず姉に向いたままでした。

転機が訪れたのは昨年のことです。姉が突然、マレーシア人の男性を自宅に連れてきて、結婚したいと言いました。父も反対はしましたが、母の反対は父とは比べものにならないほどすさまじいものでした。姉と男性に向かって怒鳴り散らし、ものを投げつけて、最後には号泣してしまったのです。

突然態度を変えた母親に激しい憤り

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母は最後まで、姉の結婚を許しませんでした。姉は家を出て、そのマレーシア人男性と結婚しました。私とはときどきメールのやり取りをしていますが、母にはほとんど連絡していないようです。

するといきなり、母の関心が私に向くようになったのです。一緒に買い物に出かけると、高い服などを買い与えてくれるようになりました。また先日は、レッスン料を負担するから、料理教室に通わないかと私に勧めてきたのです。

母が私を大切にしてくれるのは、とてもうれしいです。その反面、私は急に息苦しさを感じるようにもなったのです。何よりも、姉が結婚するまでは私をないがしろにしていました。そういう母、授業参観日に私の教室に来なかったこともある母に対する怒りがこみ上げてきます。ですから、母に『今さら何よ! これまでのこと覚えてるの? 私がどれだけ傷ついたか、わかってるの? ちゃんと謝りなさいよ!』と叫びたくなるのです」

この母親にとって、最近まで姉は“愛玩子”、妹は“搾取子”だったと考えられる。だが、姉の結婚を契機に、母親は妹を“愛玩子”として大切にすることにしたようだ。これは、この母親にとって重要なのが、子育ての成功を実感でき、優越感を感じられる子どもを持つことだからだろう。

これまでは、母親のしつけや教育が優れていたことを示す生き証人は姉だったのだが、マレーシア人と結婚したことによって、母親からすれば理想像から外れてしまった。そこで、ある意味では仕方なく、妹を“愛玩子”として、高い服を買い与えたり、料理教室に通うことを勧めたりするようになった。

何のためかといえば、妹が女子力を磨いて、母親の眼鏡にかなう男性と結婚し、母親が自慢できるようにするためである。結局、子どもを自分の所有物としか見なしていないのだろう。

片田 珠美 精神科医

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かただ たまみ / Tamami Katada

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)、『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)など多数。

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