「愛玩子」と「搾取子」をつくるゆがんだ親の心理 兄弟格差をつけることに何の意味があるのか

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必要なものを与えないという仕打ちを兄弟姉妹のうち誰か1人にだけする親もいるようだ。例えば、次のような話を聞いたことがある。

「私は弁当をつくってもらったことなど一度もないが、弟も妹もつくってもらっていた」
「父が出張でいなかったとき、テーブルに母と弟の分のご飯しか並んでいなかった」
「兄は習い事にも塾にも通っていたけど、僕はどこにも通わせてもらえず、学校から帰ったらすぐ家の手伝いをさせられた」

姉には新品の水筒、自分はもらい物

このように兄弟姉妹で格差をつけることが子どもの心を傷つけ、後々まで禍根を残すこともある。その典型のように見えるのが、2018年6月、走行中の東海道新幹線車内で男女3人が刃物で襲われ男性1人が死亡した事件で、現行犯逮捕され、その後殺人罪などで起訴された犯行当時22歳の小島一朗被告である。

小島被告は動機について「刑務所に入りたかった。無期懲役を狙っていた」「誰でもいいから殺そうと思った」などと供述した。なぜこんな身勝手な動機から犯行に及んだのかと理解に苦しむが、犯行に至るまでの小島被告の人生を振り返ると、その底にくすぶっていた親への怒りと欲求不満が見えてくる。 

小島被告は、5歳の頃、児童保育所から発達障害の一種である「アスペルガー症候群」の疑いを指摘されたのに、母親は「そんなの大きくなれば治る」と病院に通わせず、放置していた。14歳のときに小島被告が自ら病院に行こうとしたが、薬代が高いからという理由で母親はお金を渡さなかったという(『週刊文春』2018年6月21日号)。

やがて、決定的ともいえる騒動が起こる。中2の新学期に母親が姉には新品の水筒を与えたのに、小島被告にはもらい物の水筒を与えたところ、その日の夜中に両親の寝室に入ってきて包丁と金槌を投げつけた。小島被告は、駆けつけた警察官に「新品の水筒を貰ったお姉ちゃんとの格差に腹が立った」と語ったという(同誌)。

水筒をめぐる不満は氷山の一角にすぎず、こうした格差を小島被告は常日頃から感じていたのではないか。この騒動をきっかけにして、小島被告は自立支援施設で暮らすようになり、この施設から定時制高校に通い、さらに職業訓練校に進んだようだ。思春期の多感な時期に施設で5年間集団生活を送らざるをえなかったことで、親から捨てられたように感じた可能性も十分考えられる。

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