千葉の停電、「県の初動」はなぜ遅れたのか 停電が長期化し、病院や酪農に深刻な影響
酪農家も長引く停電で大変な思いをしている。台風が直撃した南房総市の山間部で長男、2男とともに酪農を営む黒川一夫さん(69歳)は、発災から6日目の9月14日に初めて生乳を出荷できた。
台風の直撃とともに停電が発生し、搾乳ができなくなった。45頭の乳牛のうち6頭が乳房炎にかかった。発電機を借りてしのごうとしたがうまく見つけられず、当初は仲間の酪農家から借りた発電機で一時的に対応した。
しかし、発電能力の不足で1日に2回必要な搾乳が1回しかできなかったうえ、冷却設備も動かせなかった。4日目の12日にようやく新たな発電機をレンタルで借りることができ、搾乳は従来の1日2回体制に復帰。翌13日からの出荷再開につなげた。
千葉県や政府の初動は遅れた
黒川さんは「猛暑で牛が弱り、乳量も少ない。今年いっぱいは後遺症が残る。息子たちの人件費も出ないかもしれない」と厳しさを説明する。
携帯電話など通信回線も、停電が原因でつながらない状態が続いている。南房総市の酪農家、奥澤捷貴さん(75歳)は「農協と電話がつながらず、飼料の購入などの連絡のために、車で行き来せざるをえない状態が続いている」と話す。携帯電話各社は移動電源車や予備電源で対応しているが、稼働できていない基地局があるためと見られる。
今回の停電では、「おおむね2日後」から「おおむね1週間以内」へ、さらに「2週間以内」と停電解消の見通し時期が二転三転した。東電への批判が集中したが、千葉県や政府の初動も遅れた。
千葉県が災害対策本部を設置したのは、大規模停電発生翌日の9月10日午前9時。千葉県では当初、県と市町村とをオンラインでつなぐ「防災情報システム」で情報を収集しようとしたが、うまくいかなかった。そのため、情報把握を目的に県下市町村に職員を差し向けたのは、9月12~13日と遅れた。経済産業省が「停電被害対策本部」を設置したのは、4日後の9月13日だった。
電力のリスクマネジメントに詳しい京都大学の安田陽特任教授は、「クライシスマネジメント(危機管理)の欠如」を指摘する。「停電長期化の発表を決断するのは民間会社だけでは荷が重すぎる。そもそも大規模災害時には正確な情報を得ること自体が難しく、情報が不足している段階でも最悪の事態に備えてどう意思決定するかがクライシスマネジメント。政府や行政の初動が遅かったことが最大の問題だ」(安田氏)。
発災から1週間が経過した現在も、多くの課題が残っている。
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