日露交渉「進展」は日本にデメリットでしかない 日本のメディアの的外れな批判は痛い

拡大
縮小

さらに一部の言論人から「日本側は大幅譲歩して、事実上4島返還要求から2島返還要求まで主張を下げたのに、それでも交渉は進展しない。もはやロシアはまじめにこの問題を解決する気がない。日本政府もいったん交渉から引いて出直したほうがいい」といった主張を聞くことがある。これも非常に奇妙な議論である。

ロシアを批判するのはいいのだが、ちょっと待って、「日本は2島返還まで要求を下げたのにロシアが……」という言い方に違和感を抱かないのか? ロシアの行動はもともと論外(何せよ、74年間北方領土を不法占領し続けている無法国家なのだから)。それなのに、なぜ「2島返還まで要求を下げた」ことが注目を浴びないのか? 日本政府は、戦後最大の国益を損なう行為をしようとしていることに、誰も気づいていないのか?

2島返還論は最悪な売国政策

2島返還論とは、最悪の売国政策なのだ。2島返還とは、言い換えるとほかの2島、つまり北方4島全面積の93%を占める国後島と択捉島をロシアに割譲するということを意味している。仮に「2島返還で平和条約」ということが合意されれば、それは国際的に領土問題が解決したことを意味する。

一部の人は、とりあえず2島を返還してもらって、残りの2島について引き続き協議すればいいと提案しているが、これは非現実的だ。領土が返還された後、平和条約を結ばれたら、それは両国間の領土問題が解決し、両国はお互いの新国境を認めたことを意味する。

その後日本が残りの2島を返還するよう求めることは、国際的に通用しない。この場合は、日本の要求が不当ということになる。国際法上、北方4島は日本領土である今の状況があるからこそ、日本は4島返還を求めることができ、日本の要求は正当である。平和条約を結べば、この状況が変わる。

唯一の例外は、例えば平和条約の条文に「残りの2島の領土帰属については引き続き協議する」という文を入れることで(それでも今より格段に不利になるのだが)、この場合はまだ議論の余地がある。

しかし、このような条文をロシアが平和条約に書かせるわけがない。ロシアは平和条約の条文を自分に有利なものにするだろう。だから2島返還で平和条約が結ばれた時点で、日本は事実上、残りの2島(北方領土全面積の93%)のロシアへの帰属を認めることになるのだ。

次ページ領土問題「今すぐ」解決する必要あるのか
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT