JR東労組「3万5000人」大量脱退に蠢く秘密組織 コードネーム「トラジャ」が落とした深い影
しかし会社側は、この組合側の要求について「入社間もない若手と経験値の高いベテランのベアがつねに同額でなければならないことは、実質的に公平を欠く結果を招来しうる」などとして、「到底認められない」と拒否。
さらに同月26日、スト権行使を通告してきた組合に対し、旧国鉄が分割・民営化され、JRが発足した1987年以来、「労使協調」をうたい、30年余りにわたって締結を続けてきた「労使共同宣言」の失効を通知した。
国鉄・分割民営化、JR発足から約30年の歴史で、JR東日本がJR東労組に対し、公然と対決姿勢を示したのもこれが初めてのことだった。
このJR東日本による、約30年に及ぶ労使共同宣言の実質的な破棄によって、JR東労組から、3月に約1万3000人、4月にはさらに約1万4000人の組合員が脱退。脱退の動きはその後も止まることを知らず、約1年後の2019年4月時点で、脱退者は約3万6000人に達し、JR東労組はわずか1年の間に、その勢力を約1万900人にまで落としたのだ。
「極左暴力集団」による支配
このJR東労組を、国鉄・分割民営化以来20年余りにわたって牽引してきたのは、松崎明氏(2010年12月に死去)。
国鉄時代、「スト権スト」(公共企業体だった国鉄の労働者に認められていなかったスト権を要求して行われたスト)など過激な闘争方針で知られ、「鬼の動労」と呼ばれた「国鉄動力車労働組合」を率い、警察当局から「極左暴力集団」とみなされる「革マル派」(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)の「ナンバー2」だった人物だ。
国鉄分割・民営化前年の1986年、動労委員長だった松崎氏は、それまでの分割・民営化反対の方針を180度転換。賛成に転じ、過去に激しく敵対してきた「鉄道労働組合」(鉄労)などと手を結び、JR東労組や、その上部団体である「全日本鉄道労働組合総連合会」(JR総連)を結成した。JR発足後は、JR総連の副委員長を務めるとともに、JR東労組の委員長に就いた(その後はJR東労組の会長、顧問となった)。
このため、JR東労組をはじめとするJR総連傘下労組は今も、旧動労の血を色濃く残す一方で、警察庁警備局をはじめとする公安当局は、JR東労組、JR総連の〈影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している〉(2018年2月23日政府答弁書)とみている。
JR東日本発足後、前述の労使共同宣言に象徴される「労使協調」の美名の下で培われてきた同社の歴代経営陣と、松崎氏ら革マル派活動家が〈影響力を行使〉するJR東労組との労使癒着は、組合による人事権への容喙(ようかい)を招き、「JR東労組(組合員)ニアラザレバ(JR東日本)社員ニアラズ」という悪しき企業風土を醸成してきた。
そして、その企業風土は職場規律の乱れを生み、過去には刑事事件にまで発展。逮捕、起訴され有罪判決を受けた組合員の中には、当然のことながら革マル派の活動家も含まれていた。
今から13年前のことだ。私は、2006年7月から約半年間にわたって、「週刊現代」誌上で、このJR東日本のいびつな労使関係を問う連載キャンペーンを展開し、翌2007年6月には、その連載を基にした単行本『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)を上梓した。が、この間、JR東日本の堅牢な労使関係はびくともしなかった。
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