JR東労組「3万5000人」大量脱退に蠢く秘密組織

コードネーム「トラジャ」が落とした深い影

ちなみに、「マングローブ」とは、国鉄・分割民営化前年の1986年、松崎氏が、分割・民営化後のJR各社の労働組合における「革マル派組織の防衛と拡大」を目的に、JR内革マル派(JR革マル)の優秀な幹部活動家を集め、結成した秘密組織の呼称だ。

しかし、その『マングローブ』の出版から12年後、前述のとおり、JR東日本が「労使共同宣言」の実質的な破棄を表明した途端に、「鉄の結束」を誇っていたはずのJR東労組から約3万人の組合員が、まさに雪崩を打つように脱退したのだ。あっけないものである。

だが実は、JR東日本はこの間、JR東労組・JR総連の精神的支柱で、両組合の「人格的代表者」とまで称された前述の松崎氏の死を機に、JR東労組に対する攻勢を一気に強め、組合の弱体化を図る施策を次々と繰り出していたのだ。そして、彼らを「スト権の行使通告」という“暴発”にまで追い込んだのである。

革マル派秘密組織のコードネーム「トラジャ」

今回、上梓した『トラジャ――JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』では、松崎氏の死を機に、JR東日本がJR東労組への攻勢を強め、暴発へと追い込んでいく過程を含め、同社の現経営陣がそれまでのいびつな労政の転換を図るまでの経緯、すなわち、JR東日本はいかにして、国鉄・分割民営化後の30年余りにわたりJR革マルの呪縛から解き放たれか――を描いた。

「トラジャ」とは、前述の「マングローブ」と同様に、松崎氏が作った革マル派の秘密組織だ。松崎氏は、マングローブを結成した1986年、動労や国労(国鉄労働組合)出身の有能な革マル派の構成員を、「職業革命家」として革マル派党中央に送り込んだ。その1年後に、これらのメンバーを、革マル派党中央の「労働者組織委員会」の中で「トラジャ」と名付け、マングローブをはじめ、革マル派傘下の教職員や郵政など、各産別労組の指導にあたらせたという。

私が、前著に続いて革マル派の秘密組織のコードネームを、メインタイトルに据えたのは、この本が『マングローブ』の続編という性格を持つからだけではない。今回のJR東労組の「スト権行使」通告や、それを機に始まったJR東労組の崩壊にも、この「トラジャ」が深い影を落としているからである。

『トラジャ』では、前著ではさまざまな理由から触れることができなかった、沖縄や東京を舞台とした「JR革マル」vs.「革マル派党中央」の壮絶な内ゲバについても詳述した。

そして今なお、〈影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している〉とされるJR総連傘下単組を「最大組合」として抱える、JR北海道やJR貨物の実態にも迫った。

2019年4月時点で3万6000人に達した、JR東労組からの脱退者は今なお、いずれの労働組合に所属しておらず、JR東日本における労働組合の加入率は約3割にまで低下している。

それは、故・松崎氏が動労時代から志向してきた「戦闘的国鉄労働運動」の終焉を意味するだけではなく、現在の日本の労働組合、とくにその6割以上を占める、従業員数1000人以上の大企業の「企業内労組」が直面する現実を改めて浮き彫りにしている。

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