「中年の引きこもり」ドイツではありえない理由 「親元を離れないこと」は社会的に格好悪い

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引きこもりの問題は当然ながら周囲に隠したまま解決できるケースばかりではなく、川崎のケースのように最悪の結果を迎えてしまうこともあります。そう考えると、日本で引きこもりの問題が長期化しているのは「恥の文化」と無関係ではないといえるでしょう。

ドイツには「家庭内の問題を外に知られるのは恥」という考え方はないため、ドイツの雑誌では罪を犯した人の親が名前も顔も出したうえで、「なぜ子どもが罪を犯してしまったかと思うか」について語り記事になることもあるぐらいです。世間もそれを見て親を非難する様子はなく、むしろ大変な思いをしている家族に同情する傾向があるので、「社会の雰囲気」そのものが日本とは違うのかもしれません。

「子の自立」を妨げる日本社会

「引きこもり」の問題以前に、日本で暮らすと親子の密着度が高いと思うことがたびたびあります。例えば大学生が企業に内定すると、その学生が親の反対を受けて内定を辞退しないように、企業が学生の「親」を説得し囲い込むこともあるといいます(いわゆる「オヤカク」)。こういったことが完全に悪いことだとは言い切れないのかもしれませんが、少なくとも「子の自立」とは遠いところにいるのは間違いないでしょう。

ドイツを含むヨーロッパの10代や20代は大学の進学先や勤め先について親に報告することはあっても、「親の同意を求めなくてはいけない」と考える人はあまりいませんが、日本では成人後も「親に相談する」ことが世間でも当然視されているようです。

そういったことが、子が成人後も実家に住み続けたり、引きこもりを続けても、そのことが問題視されながらも、どこかで容認されてしまっていることにつながっているのではないでしょうか。

アメリカでは「両親が家を出て行かない30歳の息子を訴えた」ことが昨年ニュースになりました。

ニューヨーク州郊外に住むロトンド夫婦は息子に当初「2週間以内に家を出ていくように」という旨の手紙を書き、息子が自立するための援助も申し出ましたが、その後息子が家を出ていく気配がなかったため、夫婦はニューヨーク州最高裁に提訴したとのことです。

そして裁判所は「息子は家を出て行かなければならない」と判断をしたため、息子はようやく家を出て、その後Airbnb(民泊物件)で暮らしています。この場合は、両親が司法に訴えてようやく「子どもの自立」が実現した形です。

それにしても「わが子を訴える」というのは日本の感覚だとなかなか衝撃的です。このアメリカ流のやり方が日本でも通用するかというと、文化的にもおそらく難しいかと思います。

しかし、記事の冒頭のケースのように、高齢の親の死亡によって長年引きこもり生活を続けてきた中年の子どもが家に取り残されてしまうということがすでに起きている以上、「8050問題」を含むすべての「引きこもり問題」に本気で取り組まなければいけない時期にきているのは間違いありません。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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