いい子があっけなく「ひきこもり」化する原因 引き金は勉強優先の「勝ち組教育」

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こういう不純な気持ちも入り交じっているので、「勝ち組教育」にこだわる親は、子どものありのままの姿をなかなか受け入れられない。なかには、できの悪い子どもは自分の子とは思いたくない親もいる。

こういう親の気持ちは、口に出さなくても、以心伝心で子どもに伝わるものだ。もちろん、「なんでお前はできないんだ」と子どもに言う親もいるだろう。いずれにせよ、「勝ち組教育」にこだわる親によって子どもも洗脳され、「『勝ち組』になれなければ、だめなんだ」と思い込むようになる。

「いい学校」に入ったのに不登校に

それで一生懸命勉強して、うまくいっている間は問題が表面化することはない。だが、一握りの極めて優秀な人を除けば、ずっと「勝ち組」でいられるわけではない。いつか、どこかでつまずくときがやってくる。そういうとき、親の「勝ち組教育」によって洗脳された人ほど、なかなか立ち上がれない。

頑張って「いい学校」に入ったのに、ささいなきっかけで不登校になって長期化することもあれば、せっかく就職した会社を辞めた後、「いい会社」にこだわりすぎて再就職先が見つからないこともある。

これは、「『勝ち組』になるしか生きる道はない」という狭い価値観を親から刷り込まれてきたせいで、つまずいたときに、別の道を思い浮かべることも、探すこともできないからだろう。

仮に別の道を選んだとしても、それまでの自分を支えていた「勉強ができる」というプライドが災いして、「自分は『負け組』だ」というコンプレックスにつねにさいなまれる。それが、そこからはい上がろうとする気力をそぐこともある。

そういう事例を精神科医として数多く診察してきた。だから、「『勝ち組』になるしか生きる道はない」という価値観を子どもに押しつけ、狭い一本道に追い込んできた親は、自らの「勝ち組教育」のせいで立ち直れなくなった子どもが家庭という密室で暴力を振るい、暴君と化し、親を奴隷のように扱うようになったら、それを子どもからの復讐と受け止めるべきだと思う。

そして、自分が正しいと信じてきた価値観に疑問符を打たない限り、子どもの暴君化を止めることはできないだろう。

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