「韓国ウォン安」が新たな貿易戦争を生む「懸念」 ベトナム経由での対米輸出増加が火ダネに?

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これだけではありません。アメリカでも8月14日、10年物国債の利回りが2年物国債利回りを約12年ぶりに下回る長短金利の逆転(逆イールド)が生じ、先行きの「景気後退(リセッション)」を想起させたことで、NYダウ工業株30種は800ドル以上、急落しました。また、9月1日、トランプ政権は約1100億ドル(約12兆円)相当の中国製品への追加関税を発動する一方、中国もただちに報復関税を発動し、さらに2日にはWTOに提訴するなど、米中貿易戦争が一段とエスカレートしてきました。

その後、10月上旬に米中閣僚級貿易協議が再開する見通しとなって株価はやや持ち直しているものの、関税引き上げ合戦、通貨切り下げ競争で最終的に世界大戦に突入した1930年代を彷彿させるような異常事態となってきています。

欧州では、8月21日のドイツ30年債入札で利回りが初のマイナス圏となるとともに、8月28日、政治的混乱の渦中にあるイタリアの10年国債までもが1%の節目を割り込み、過去最低を記録するなど「債券バブル」の様相を呈する異常事態となっています。

また英国では議会が4日、欧州連合(EU)からの離脱延期を政府に求める法案を賛成多数で可決しました。これに反発した英ボリス・ジョンソン首相は、国民の信を問うとして総選挙を提案しましたが、離脱延期法案成立を優先したい野党の大半が解散動議に棄権し、必要な賛成が得られず英政局の混迷は当面続きそうです。

そうした中、地理的に日本の目と鼻の先である韓国でも、8月に入り、日本政府が元徴用工問題を背景に韓国を輸出管理の優遇対象国(ホワイト国)から除外する一方、韓国側は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告を行うなど、貿易、安全保障での日韓の枠組みに亀裂が入る異常事態になってきています。

このように足元、世界のマーケットでは異常とも言える事態が相次いでいますが、もし、ここから韓国ウォン安が一段と進行すれば、どんな事態が予想されるのでしょうか。

米中の覇権争いのさなか、韓国は何をしている?

筆者は、米中貿易摩擦が激化する中、ここから一段と韓国ウォン安が進めば、サムスングループなど韓国のハイテク企業がウォン安で一息つき「漁夫の利」を得ようとすることで、米ドナルド・トランプ大統領の「虎の尾」を踏み、各国を巻き込んで、貿易紛争がエスカレートする事態になる可能性を危惧しています。

大国間の覇権争いの側面が強い米中貿易摩擦において、アメリカは将来、ハイテク分野をけん引すると思われる中国国有企業に難癖をつけながら圧力をかけ、ハイテク分野でアメリカの優位性を保とうとしています。

特にAI(人工知能)、自動運転など将来の成長分野に欠かせないと言われる「半導体」や「5G」関連の競争力維持には両国ともひときわ注意を払っているように思います。そうした米中ハイテク企業の覇権争いのさなか、足元の円高圧力は日本のハイテク企業にとって競争力を低下させる要因になる一方、ウォン安の進展は、サムスン、SKハイニクス、LGなど韓国のハイテク企業グループの輸出競争力を相対的に高めることになります。

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