「N国党」新宿区議員の当選が取り消された理屈 地方議員に3カ月の居住実態が必要となる意味

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国政における外交や安全保障といったより大きな問題ではなく、あくまで当該地域に根差した諸問題においては、より住民の声を直接反映させるべきであるため、地方自治法には、条例の改廃や議会の解散、首長・議員のリコールなどの直接民主制が導入されている。公職選挙法が定める住所要件は、地方自治の考え方と歩調を合わせ、地方議会には、治者と被治者の同一性が強く求められる結果、地方議員は当該地域の住民であるべきという制度になっているといえる。

ライフスタイル多様化の中で住民自治をどう考えるか

私見を述べさせてもらえば、被選挙権付与に当たっての3カ月の住所要件を将来的に撤廃することが妥当ではないかと思う。

これまでの事例では、生活の本拠は1つの場所のみが認められるケースが多かったが、現代のライフスタイルの多様化に当たっては、複数の場所において生活を営むことも決して珍しいことではない。単身赴任で他地域に転出しているものの、家族が選挙地域に残っている場合、どちらに生活の本拠があるか判断することが難しいこともあるだろう。

実際の類似ケースとして、兵庫県小野市議会において住所要件を満たしていないとして議員資格を失った事案があるが、最終的には同市議会の決定が取り消されている。家族の有無にかかわらず、平日は都市で生活し、週末は郊外のセカンドハウスで過ごすといったようなライフスタイルも今後増えていくことだろう。

また、当該地域の問題に適切に取り組むことができるかという観点において、3カ月という期間はあまりに形骸的なものであり、実際に大きな意味をなしていないと思われる。仮に他の場所に生活の本拠があったとしても、選挙地域が出身地であるとか、家族・親族が住んでいるといった何らかの縁を当該地域に持っている人であれば、当該地域の問題に取り組むことはできないと一律に決めてしまうことには合理性がない。

候補者の居住実態を適切に情報公開したうえで、長くその地域に定住している人を選ぶのか、それとも必ずしも長期間住んでいないとしても地域のために役立つ人を選ぶのかは、住民自治の観点からすれば、最終的には選挙権者たる地域住民の判断に委ねるべきであるし、それこそが憲法の定める「地方自治の本旨」にかなうのではないだろうか。

参考文献:『地方議員選挙における被選挙権要件に関する一考察 ―3箇月住所要件および兼業禁止規定についてー』神山智美(富山大学紀要 富大経済論集 第63巻第2号抜粋(2017年12月))
田上 嘉一 弁護士、弁護士ドットコム取締役

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たがみ よしかず / Yoshikazu Tagami

こちらも早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。陸上自衛隊三等陸佐(予備自衛官)。防衛法学会、戦略法研究会所属。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数。

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