「N国党」新宿区議員の当選が取り消された理屈 地方議員に3カ月の居住実態が必要となる意味

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つまり、単に住民票を移しただけでは足りず、そこに住んでいるということ、「生活の本拠」であるという実態が必要となる。実際に、上述の寝屋川市議会のケースでは、当該候補者が選挙の3カ月以上前に住民票を移していたものの、実際は他人が居住する部屋の一角をついたてで仕切っただけで家財道具も搬入していなかったため、住所要件を満たしていないと判断されている。

そして実際に住んでいるかどうかは、住居、職業、生計を一にする配偶者その他親族の存否、資産の所在等の客観的事実に加え、言動等により外部から客観的に認識することができる居住者の居住意思等を総合的に考慮したうえで判断される。具体的には、

(1)平日および休日の生活
(2)生活基盤の整備状況としての電気、ガス、水道、インターネット、し尿のくみ取り等の利用契約と使用量
(3)住所地にある家電製品の有無や使用状況
(4)住民票の移動や運転免許証の住所の移動、郵便局への転居届等
(5)新聞の契約、ATMの履歴や地域住民との交流

などを証拠として判断されるのが通例である。

今回の松田美樹氏のケースでも、新宿区への転入以降毎月の水道とガスの使用量は0〜1立方メートルで、電気も室内の冷蔵庫の消費電力と同じ程度だったことや、洗濯やペットの世話など生活の多くが転入前の住所で行われていた事実を根拠として、「新宿区に生活の本拠があったとは認めがたい」という判断がなされている。

地方議員は地縁社会との結び付きが必須

国会議員や地方自治体の首長には求められないのに、なぜ地方議員にのみ住所要件が課せられているのか。教科書的には、地方議員には、地縁社会との結び付きが必須とされているからだといわれている。その地域に住み、人間関係においても根付いているからこそ、その地域の問題をくみ上げ、対処していくことが可能であるという考え方がその根底にある。

他方で、国会議員は地域代表ではないから住所要件は不要であるし、地方自治体の首長については、行政を執行する立場であるから有能な人材を広く募るという趣旨で住所要件が求められないようである。

さらにいうと、日本国憲法92条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」としているが、ここでいう「地方自治の本旨」とは、住民自治と団体自治の2つの要素から構成されており、そのうちの「住民自治」とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であるとされている。

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