日韓不和など「どうでもいい」トランプの関心 アメリカ政府高官とトランプの考えは違う

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以前貿易交渉を担当していたウェンディ・カトラー氏といった、トランプ大統領の貿易政策に批判的な人々さえもが「歓迎できるニュース」として評価する合意となった。しかし、徐々に明らかになってきているように、貿易協定そのものはまだ結ばれていない。「状況は正しい方向に進んでいる」と、日本側の交渉担当者は話すが、重要な事案はいまだ解決されないままである。

問題となっているのは、トランプ大統領自身だ。大統領の主な関心は、貿易戦争に対して不安感を次第に募らせ始めたアメリカの農家へのプレゼントとして「膨大な」量のトウモロコシと小麦を日本が買い上げるという誇張した主張を吹聴することにある。一方、安倍首相はこれについて言及した際、注意深く言葉を選び、また、貿易協定に関しては、その内容と表現の両方についてまだ解決すべき課題が相当残っていることを明確に表明した。

トランプ大統領は6~7割増しにしたい

この協定で農産物とデジタル製品は障害ではない。今回の交渉で得た合意は実質的に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉でオバマ政権時にすでに得た合意に多少の細かな変更を加えて焼き直したものにすぎないのだ。

明らかになっていないのは、アメリカ通商法232条に従って多大な自動車関税を課す圧力を、トランプ大統領が、明確に文書で、放棄する覚悟があるのかどうかという点である。これが、日本が譲れない一線であり、日本の農産物市場への参入はこの点の譲歩がない限り受け入れられないと日本側の交渉担当者は断言している。安倍首相が交渉の決着を急ぐあまり、トランプ大統領相手に不利な取引をまとめ、トランプ大統領の漠然とした約束に甘んじてしまうことを日本の交渉担当者は内々では危惧している。

アメリカ側の専門家もおおむね懐疑的である。まだ表面化していない厄介な問題の1つが、在日アメリカ軍の費用の日本側の負担分を大幅に増加したいとトランプ大統領が考えている点だ。

複数の信頼できる情報筋が伝えるところによれば、トランプ大統領は当初駐留経費の倍額を日本に負担することを検討していたものの多少の歩み寄りを見せ、現行の60~70%の資金増加を要求するよう交渉担当者に指示しているとのことである。同じく複数の情報筋は、1月に始まる防衛コストの費用分担交渉時に自動車関税の脅威をテコとして利用することをトランプ大統領が求めていると警告している。

大統領選が徐々に本格化する中、トランプ大統領は「関税圧力」という武器を手放したくないはずだ。「日本側が(費用分担の大幅増加を)受け入れることはないと思う」とグリーン氏は予想する。「この問題については、日本政府は、中国政府のように、時間稼ぎをするのではないか」。

ライトハイザー氏は全力を尽くして妥当な取引をまとめようとするはずである。しかし、ライトハイザーとよく連絡を取り合っている元上級交渉担当者が語るように、「トランプ大統領がらみでまともな取引などありえない」のだ。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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