入社1年目から上司とケンカ
片岡さんはおとなしそうな外見とは違い、中身は自他ともに認める頑固だという。入社1年目から11歳年上の男性上司と「ケンカ」した。
ジャンルを横断した企画に取り組むという野心を持って入社した片岡さん。最初から部署の枠を超えた企画にこだわったのだ。上司が聞く耳を持った「言いやすい」人物だったとはいえ、新人なのだから控えめに振る舞って、かわいがってもらおうという発想はなかったのだろうか。
「ほかの人から好かれるに越したことはありません。でも、やりたいことをやりたいという気持ちのほうが強いです」
強気な片岡さんも、入社3年目には転職願望がピークに達していた。忙しすぎるからだ。出社は朝8時。繁忙期は「24時前の終電以外の電車で帰ったことがない。土曜日も出社」という長時間労働の日々である。
「土曜日に帰宅したら倒れこむように眠り、日曜日も昼まで寝ていました。でも、3年目を超えてからは『やっぱりいい会社だな』と思い直すようになりました。任せてもらえる仕事も増えて、自分で好きなように回せるようになってきたからです」
今、社会人6年目。会社や仕事とは相思相愛になりつつある。しかし、恋愛について聞くと声のトーンが少し落ちた。学生時代から8年間も付き合っていた恋人と2年前に別れ、それ以来はいい出会いがないという。その恋人がよほど魅力的な人だったのだろうか。
3年の遠距離恋愛の末…
「サークルの先輩でした。頭の回転が速くて、いろんなことを知っている人です。文理を問わずに横断的な知識があって、思いもつかないことを結び付けて見せてくれました」
学究肌の彼は、早稲田大学を卒業後に北海道大学に入り直すという型破りの選択をする。片岡さんは3年間ほど遠距離恋愛を続けたが、しだいにお互いの気持ちが離れてしまった。
「仕事を辞めて北海道に来い、と言われていたら行っていただろうと思います。でも、明確には言われませんでした。私自身にも迷いがありました。仕事を捨てて北海道に行ったら、捨てたものの埋め合わせを彼に求めてしまう気がしたからです」
片岡さんにとっての仕事とは、「能力を生かせて、成果を周りに評価してもらえること」である。自分にはどんな仕事能力があると考えているのだろうか。
「小さい頃から文学が好きで、言語能力があることで得られるものの大きさを感じてきました。編集者はいろんな人の意見や才能を集めて形にしていかなければなりません。私は頑固なので、ゴールを見失わずに軸をぶらせずにまとめていく力はあると思います。北海道にも出版社はありますが、私に向いた企画はできなさそうだし……」
尊敬していた恋人とは結婚に至らなかった。でも、現状には満足している。好きな仕事にゆとりを持って打ち込めるようになり、学生時代からの友人たちと支え合いながら暮らしている。
かといって、つねに一緒にいるわけでもない。宮沢賢治の作品を耽読して星座や原石に興味を持った片岡さんは日本各地を独りで旅行している。昨年の七夕は星座観測で有名な長野県の宿に宿泊し、夜中に開催された「星座クイズ」ではカップルだらけの宿泊客を押しのけて優勝。賞品のワインを受け取って独りの部屋に戻った。
そんな片岡さんにも焦燥感はある。結婚と出産だ。
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