「10代の望まない妊娠」をどうすれば防げるか 西アフリカ・トーゴ女性の取り組みに学ぶ

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実際には日本国内にも10代の妊娠が少なくない地域が存在する。教育が必要なのに、古い考えのリーダーがそれを阻む。日本も課題が大きい分野だから、シェリタさんの話にうなずくところが多かった。

SRHRは男女平等政策の中でもとくに重要なテーマの1つだ。望まないセックスや妊娠をしない権利が女性の基本的人権であることは、国際的によく知られている。日本でも最近、「性的同意」について関心が高まっている。いつ、誰とセックスするのか、本人の同意が大事という考え方だ。たとえ付き合っているカップルであっても「今日はしたくない」ということはありうる。また「ノー」を言っているのに無理強いするのは当然いけない。

シェリタさんは、まさにこうした内容をトーゴの10代20代向けに伝えている。手にした漫画には、付き合い始めたばかりの10代男女が描かれていた。男の子はセックスしたいが、女の子はしたくないという設定で、女の子が妊娠してしまったとき、男の子は知らん顔で逃げてしまう。女の子が両親に相談できずに悩んでいると、叔母がいいアドバイスをしてくれる。

身近で起こりそうなお話を通じて、若い世代に性的合意、避妊の重要性と共に、望まない妊娠をしてしまった場合に備えた安全な中絶方法の存在を伝えている。こういう漫画を手にする機会が日本の10代にもあったらいいと思う。

トーゴにはシェリタさんのように性と生殖に関する健康と権利について伝える「ピア・エデュケーター」がほかにも大勢いる。2017年4月だけでも、首都にあるロメ大学の学生125人が、トーゴ家族福祉協会が提供する講座を受講してピア・エデュケーターになった。また、2016年のバレンタインデーには、性的同意などの重要性を伝えるイベントを国内の二都市で開催した。

課題の多いトーゴの医療設備や治療方法

このように啓蒙や意識の面では日本とトーゴで共通する部分も大きい。その一方で、婦人科系の病気やその治療法については、経済状況の違いを感じることがたくさんあった。トーゴの医療設備は日本と比べるとかなり厳しい状況にあるからだ。

トーゴの医科大学病院で非感染症部門トップを務めるベロー教授(写真:ATBEF提供)

トーゴの医科大学病院で非感染症部門トップを務めるベロー教授は「わが国の保健大臣はがん対策の重要性を強調していますが、現状は予算・情報・人材すべてが不足しています」と話す。

7月25日の午前中、ベロー教授が勤務する大学病院のラボ(検査室)を見学させてもらった。

スタッフが作業をする検査室はエアコンもない(筆者撮影)

検査室には若いスタッフ3名が作業していたが「彼らは研修中。検査の基礎的な研修を受けている段階で、まだ複雑なことはできません」と話す。ラボにエアコンは入っておらず、壁の時計は1時頃を指して止まっていた。

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