パーソナルソングを生業にした女性音楽家の転身 米国人シャノン・カーティスの潔い生き方

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しかし彼女はこの日、「つながりの深さ」というモノサシを通して自信の音楽活動の意味と成果を見ることを意識化し、新しい指標をつかみ取った。また、そういった精神的側面だけでなく、物質・経済的側面においても大きな手応えを得た。

「客観的な指標は例えば、入場料収入、CDの販売枚数、メーリングリストへの新規登録者数。もっと一過性の指標でも、例えば、SNSでのエンゲージメントの数、やっている側としてどれぐらい楽しかったか、などなど。どれを比べても全部ハウスコンサートが(それまでのライブハウスを回る音楽活動より)よかった。ファンや知り合いに声をかけて関心がある人の協力を得て、2012年に初のハウスコンサートツアーが実現した。アメリカの西半分を回って38公演。予想より2.5倍の収益が寄付から得られた」

彼女はこれ以降、一般にイメージされる「成功しているミュージシャンっぽい活動」に心のエネルギーを割くことなく、自身の音楽活動に集中してゆく。

誰もが欲していたのは他者との「深いつながり」だった

「音楽と、それを聴いてくれる人たちのつながりの強さを最大化するという目的に合わないものは全部邪魔になり、音楽体験のよさを減らすものになってしまう。何をするにしても、全部、音楽と人のつながりという唯一のゴールに向けてのものとしてやっている。

いまわたしたちはとても寸断された社会に暮らしている。多くの会話が交流がネット上で行われる……でも、わたしたちは社会的生き物で、他の人と、物理的肉体的に同じ空間でそばに一緒にいて、同じ体験を共有するということをとても欲している。

ハウスコンサートを始めたときはわたしたちもわかっていなかったのだけれど、やるにつれて、実は多くの人が空間を他者と共有するきっかけや時間、できれば意味深い体験を共有することを求めているということに気がついた」

一般の読者は驚かれるかもしれないが、プロやプロを目指す音楽家の多くにとって、「人とのつながり」を真の目的として、しかもそれを意識して意図的な工夫を凝らしながら演奏をするということは「綺麗事」としか思えないことが多いだろう。

音楽家自身からすると、「そうはいっても、技術がなければ意味がない」「評価されなければどうしようもない」「楽譜どおり、ミスせずに演奏しなければならない」という考えがどうしても強くなってしまうからだ。

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