日本と真逆、英名門校の知られざる教育の中身 エリート輩出校の誰の目にも見える「賞と罰」

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学業以外の生徒のよからぬ行いに対しても何種類かの罰が用意されている。「ダブル(Double)」は、素行が悪かった場合に課される罰である。例えば月曜朝礼や朝の礼拝に出席しなかった、寮で朝の点呼に来なかった、通りで立ち食いをしていたなど。

具体的には細い罫線が書いてあるA5用紙に、規定数の文字をびっしりと書かせる。ハーロウ校ではもともとラテン語を書かせたが、現在は英語で書かせることのほうが多いようだ。その分量は罰の内容によって違い、50枚の罰、100枚の罰、200枚の罰、多いと400枚の罰などがある。50枚で早くても1時間以上、たいていは2時間ぐらい文字を書き続けなくてはならない。汚い字で書くとやり直しである。

私はダブルの罰を与えるとき、ラテン語や英語の代わりに日本語の文章を書かせることにした。すると思わぬ効用があった。罰を受けたある生徒は教科書の数ページを10回ぐらい書き続けるはめになったので、日本語が上達したのである。しかしこれは幸運な例外で、たいていの生徒はダブルをひどく嫌がっていた。

身体的に負担のかかる罰も

身体的な負荷がかかる罰には「労働」がある。喫煙、許容範囲を超えた飲酒、軽微な下級生いじめをした生徒や公共の場所で無礼な行いをした生徒などに課する。具体的には学校の洗濯屋の手伝い、学食で朝食の用意の手伝いや倉庫から物品の搬入・搬出の手伝いなどをさせる。

ここで「度を超えた飲酒」という言葉にひっかかった読者もいるかもしれない。イングランドでは16歳になると、その子に責任を持てる大人と一緒であれば限られた種類のお酒は飲めるし、18歳になれば自由に飲酒できる。しかしハーロウ校では学校が定めた飲酒量があるので18歳になっても学校のルールに従わなくてはならない。たばこは法律では18歳から買えるが、同校では卒業まで喫煙は禁止である。

重い罰には外出禁止、停学、退学がある。生徒が課される罰の理由はまちまちだが、外出禁止になると寮でも私服になることを許されず、授業以外の時間は寮長先生の許可を受けなくては外に出られない。

停学を命じられるのは喫煙したり、アルコール濃度の高い酒を飲んだり、上級生が下級生に飲酒を強要したり、盗みを働いたりしたときである。最短は1日で、生徒は保護者の家に戻り自宅謹慎しなくてはならない。罰を受けているにもかかわらず規則違反を繰り返すと校長から「最後通告」が出る。

身なりの乱れに関してはまた別の罰がある。例えば制服を規定通りに着ていなかったり、制帽の麦わら帽子が破れていたり、靴を磨いていなかったり、髪の毛を肩にかかるくらいのばしている場合である。ちなみにスキンヘッドも禁止である。

身なりの違反はカストス(Custos)に報告される。カストスとは日本で言う生活指導のような役目をする職員である。軍人上がりのカストスであるケントさんはわれわれには優しいが生徒には厳しかった。もしカストスに報告がなされると、その生徒は平日3日間連続で朝7時15分から30分の間にきちんと制服を着てカストスの事務室を訪問しなくてはならない。これは生徒にとってかなり重い負担である。

賞罰の対象や罰の軽重を決めるプロセスは細かく明文化されており、小冊子となって毎年教員と生徒に配られる。学校は生徒がいいことをすれば褒め、悪いことをすれば罰する。言わば当たり前のことを誰の目にも見えるようわかりやすく行っている。

ハーロウ校では業績を成した生徒が口頭で褒められるだけでなく、表彰され、紙面上やインターネット上で記録に残っていく。一方で、日本の学校では生徒の評価を可視化する機会どころか、口頭で褒めることもあまりないかもしれない。日本の小学校で学んだあと英国に移住、ハーロウ校に入学した日本人生徒はどう感じているか。そのうち3人に率直に尋ねてみた。

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