クールジャパン機構、見えない黒字化への道筋 新体制の下、国内外企業にハイペースで投資

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例えば、110億円を上限に出資するという中国・寧波での大規模商業施設「ジャパンモール事業」(2014年9月決定、110億円を上限に出資)は当初予定を延期し、2019年秋に開業予定という。機構の北川社長は「少なからずの額を投資しているものの、われわれが直接インボルブして(関わって)いないということが、初期案件での1つの形だった」と話す。

今年4月に公表された、クールジャパン機構の2033年度までの投資計画によると、単年度赤字は2023年度まで続き、累積損益が黒字化するのは2031年度。2028年度まで毎年181億円を投資する計画だ。

これだけの投資をこなすには投資に精通した人材を増やしていく必要がある。民間の投資ファンドと比べて決して待遇面で厚遇と言えない機構にどれだけ有為な人材を集められるか。

「政策性」と「収益性」の二兎を追う難しさ

最大の問題は、クールジャパン政策の推進という「政策性」と、機構解散時に純資産がゼロを上回らなければならないという「収益性」の二兎を追う難しさだ。

クールジャパン機構を所管する経済産業省クールジャパン政策課の三牧純一郎課長は「機構ができる以前のクールジャパン政策は、補助金をつけてPRやプロモーションを行う情報発信系イベントが中心だった。ビジネス的な観点は強くなかったが、機構ができてビジネスにつなげるようになった。その差は大きい」と振り返る。

もちろん、何でも「クールジャパン」に仕立て上げればいいというものではないが、本当に政策性が重要なら、補助金という形式で、投じた公金が返ってくることを期待せずに、政策性をひたすら追求すればいい。しかし、官民ファンドでは収益性という「タガ」がわざわざはめられている。

それは、ビジネスとしてゴーイングコンサーンでないと、安定的に政策性を追求できないからだ。これまでの機構はその収益性さえクリアできなかったため、従来の補助金行政との違いを示せなかった。

なぜ公的資金を元手に日本企業ではなく、海外企業に出資して、日本酒や日本製アニメを売ってもらうのか。従来の公的資金の使い方と何が違うのか。まだ十分に理解されているとは言えない「官民ファンド」という新しい政策ツールの意義とリスクを、しっかりと説明していくことが求められている。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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