れいわとN国党に通じる不安な個人への訴求力 見慣れた現実が「別の現実」の介入で反転する

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仮に山本氏の発言が都合よく切り取られたり、ねじ曲げられて伝えられたりすれば、ほぼリアルタイムで証拠を添えて拡散される。公式サイトの動画やその書き起こしなど直接ソース元に当たることが容易だからだ。印象操作の全面的な可視化である。これは「れいわ」フォロワーだけでなく、マスコミに不信感を持つ層も巻き込んで、「リアリティーの分断」へと突き進むことになる。つまり、テレビや新聞を中心に作り出される現実の風景が、見慣れた世界が、「別の現実」の介入によって「反転する」のだ。

「N国党」では、テレビの政見放送や情報番組などで知った人々が、YouTubeにチャンネル登録するという流れができている。立花氏のチャンネル登録者数は、参院選投票日の7月21日から8月9日現在までに15万人以上増えており、ほぼ倍に膨れ上がっている。そこで視聴者が目にするのは、大文字のメディアや、既得権益を背景に「N国党」を否定していると思われる人々である。

「れいわ」と「N国党」が支持された必然

言うまでもないことだが、「誰が本当のことを語っているか」は自明ではない。1つの真実などというものはなく、現実は多層的である。しかし、「消費増税で商売が苦しくなったり、家計が圧迫されている人」「NHKの受信料を支払う余裕がなかったり、集金人に困っている人」などが身近にいなければ、今回の2党の躍進をそもそも"リアルなもの"として受け止めることすらできないだろう。「リアリティーの分断」は、この日本社会の想像を絶する地盤沈下の進行についての現状認識のギャップから始まっている。

「朝から深夜まで低賃金で働かされて、上司からは毎日パワハラ。貯金はゼロだし、将来のことなんて考えられない。参院選で『れいわ』と『N国党』が議席を得て少し希望が湧いた」――。これは「れいわ」に投票した30代男性の言葉だ。ほかでも似たような声を聞いた。無党派層で選挙にもほとんど行ったことがなかったが、Twitterで「れいわ」の存在を知り「何かが変わるかも」と思ったという。

このような「社会から周辺化」された人々に訴求することができる政党が勢力を伸ばすのは必然だ。「個人的な不安」が「わかりやすいイシュー」に動員されているという批判も可能だが、社会全体に底流している同種の不安が解消されない限りはどうにもならないだろう。

「世界の反転」が意味するところはもう1つある。

仮に支持政党の「不都合な真実」が暴かれても、より支持が強固なものになる可能性が高いことだ。これはとくに「N国党」に当てはまる。支持者の40代の男性は、「いろいろ問題を起こしている政党であることは知っているが、そんなことはまったく気にしていない。スクランブル化の実施や、既得権益に脅威を与えられるかどうかのほうが重要」と語った。

これには「既存の政治体制」を「巨悪」ととらえている人にすれば「支持政党」の「悪(い部分)」など驚くに当たらない、という相対化が垣間見える。これが、安倍政権がどのような不祥事を起こしたとしても、「自分たちに利益があるから支持する」というスタンスと構造的に似ているのは何かの皮肉だろうか。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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