自己啓発マニアには解らないゲイツ成功の秘訣

「サードドア」に「しみじみ学ぶ」失敗の本質

僕が取材を受けるときでも、質問されたことに対して「今、いいこと言えたな」と思っているのに、相手からは何の反応もなく、「では次の質問です」と切り替えられてしまうことがよくあります。本来のいいコミュニケーションではないから、盛り上がりませんよね。でも、結構ありがちな失敗なんです。

脱・自己啓発の過程を読め

とくに熟読してほしいのは、ビル・ゲイツへのインタビューですね。アレックスは、マイクロソフトがIBMとの契約交渉を成功させて躍進していった80年代の出来事について、その成功の秘訣を聞き出そうと質問します。

ゲイツはかなり丁寧に答えてくれるのですが、アレックスのほうは、「この人はどうしてちゃんと答えてくれないのか?」と思っているんです。この場面、自己啓発に染まった若者の落とし穴がよく表れているんですよ。

“本当に‥…? それだけ? 聖杯はどこにあるんだ?”
なぜ僕はそこまでものわかりが悪かったのか、その理由に気づくのにしばらくかかった。
僕はバズフィードで育った世代だ。
ゲイツの深い話は、「世界一の大富豪の知られざる10の秘密」みたいなツイートや要約記事に載るような派手さがない。だから僕には、その場では価値がわからなかったのだ。
(第26章「聖杯2」より)

自己啓発に染まると、空疎なスローガンや、これといった名文句を聞きたがるんです。だけど、実際の人生にはそんな名文句は出てこないし、世の中は決してスローガンで動いているわけではない。

佐々木 俊尚(ささき としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数(写真:佐々木俊尚)

現実は、もっと地味で緻密な事実の積み重ねと、ロジックを組み立てることで出来上がっているわけですからね。ゲイツはそれをちゃんと話してくれているのに、アレックスは、言葉は理解していても、なぜゲイツがそんなことを話すのかがロジカルすぎてわからないわけです。

そして、ゲイツのこともマイクロソフトのことも、さんざん入念に調べ上げているのに、こんな質問しかできないのか、という部分もかなりリアルです。人間とコミュニケーションして、何かを得るためには、どれだけバックグラウンドとしての知識や教養が必要なのかということが如実にわかりますよ。

アレックスの場合は、ゲイツの前では理解できなくても、後でインタビューの録音を聞き返してみたときにちゃんと気がつきます。つまり、脱・スローガンができている。そして、その過程すべてが描かれているということが、この本の非常に面白く、すばらしいところだと僕は思います。

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