自己啓発マニアには解らないゲイツ成功の秘訣 「サードドア」に「しみじみ学ぶ」失敗の本質

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その点『サードドア』は、こんなやり方で成功する奴がいるのかという衝撃もあるんじゃないでしょうか。もっと面白いやり方で生きていくことができるんだなと。

途中、追い詰められてかなり重苦しい場面もありますが、行きつ戻りつするそのプロセスの中で、主人公の人生に重みが生まれてもゆきます。表面的に読めば、こうやって有名人にメールを送りまくればこんな本が書けるんだと思い込む人もいるのかもしれませんが、まねをしても成功しません。

ぜひ彼の結果ではなく、なぜ失敗したのかという「失敗の本質」について着目してほしいですね。そこを読み取って学ぶ力があれば、レールを外れて、サードドアを叩いて生きる人生を考えたとき、この本はいいサンプルになるだろうと思います。

新時代のジャーナリズム

『サードドア』は非常にジャーナリスティックでもあると考えています。ビル・ゲイツやクインシー・ジョーンズ、ラリー・キングなどインタビューに成功した部分だけをうまくまとめるという手法もあったと思うのですが、あえてインタビューにこぎ着けるまでの過程を、失敗も含めてすべて書いている。

結果に至るまでの遍歴そのものを読ませることで、今の時代を象徴する物語になっているのです。前半と後半とではタッチが変わり、落ち着いた文体になっていくことで、主人公が学びを得て変化していくこともわかります。

ジャーナリズムとはいったいなんなのか。東日本大震災の際、僕は、それを深く考えました。被災地に赴いて津波の痕を見たときに、第三者の自分がのこのこ現れて書けることなど何もないんじゃないかと思ったんです。

人の話を聞いて書く取材記事はもはや意味をなさず、当事者性が必要なのではないかと。自分が行動したことを表現したほうがいい、実際にやってみて、自分がどう変わったのか、内発的な感情も含めて書いていくのが今の時代に合っているだろう、と。

大上段から語るだけのマスコミに対して違和感を持つ人々が多いのも、「自分」のいないジャーナリズムだからです。今は、もっと主観的にコミットしていくことが光り輝く手法になると思いますし、アレックスも自分でコミットしたからこそ面白い。

失敗も自慢も含めて、変にカッコつけるわけでもなく、かと言ってみじめさだけをさらしだすのでもない。そこが共感を得る秘訣でしょう。『サードドア』は、著者アレックス・バナヤンによる新しい時代のジャーナリズムでもある。僕はそう思っています。

(構成/泉美木蘭)

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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