中国人は、なぜ食い散らかすのか?   食がわかれば、中国ビジネスがわかる

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その意味で、最後は「私の最高の思い出のひとつ」として、とても大切にしている話で締めさせていただきたい。2012年、当社(AMJ)が北京に100%の現地法人を設立したときのことだ。中国人の社員の家庭に招待されて、年老いたお婆さんが日本人の私に、珍しい田舎の家庭料理を振る舞ってくれた思い出である。

中国ビジネスに携わる日本人ビジネスマンには、反日デモの記憶がまだ生々しいが、北京でも日本人大使館をはじめ、日本レストラン、商業施設などが次々と襲われた。実は、あのとき、当社では新会社の設立記念として北京オリンピックで有名になった「鳥の巣」が一望に見渡せる高級ホテルの最上階レストランを借り切って、お披露目パーティをすることになっていた。

関係者を150人以上招待していたが、北京はパーティの数日前から騒然とした雰囲気になり、結局、時間をかけて用意したパーティをキャンセルせざるをえなくなった。

中国人の得意先の方からは、「招待を受けたいのはヤマヤマだが、今回は反日デモの影響から遠慮させてもらいたい」との連絡が相次いだ。日本大使館関係者からも「目立つ行動は自粛せよ」との連絡があった。招待客に万が一の事故が起こる可能性もあったので、見送らざるをえなかった。多額のキャンセル費用は仕方ない。だが、中国の友人たちに、「わが社をここまで盛り立てて、ありがとう」という感謝の気持ちを込めて準備してきただけに、残念至極であった。

中国ビジネスこそ、人と人の信頼で成り立つ

200回を超える中国訪問の経験の中で、残念な事件が次々に起こってしまい、日中の友好関係が修復できないところまできているのが本当に残念で、あのときは30年以上の中国ビジネスの経験の中で、いちばんガックリきて嫌気がさしていた。

そんなときだった。北京で一緒に10年仕事をしてきた呉塵君という社員が「中村さん、気を落とさずに行きましょう。僕の家で一緒に家庭料理を食べましょう」と誘ってくれたのだ。

彼の家は、北京郊外の一角にあり、言ってみれば普通のマンションの中層階にあった。ちょうど、湖北省から呉君の奥さんのお母さんが来ているので、故郷の料理を頂戴することになった。お母さんは汽車に乗っての長旅で、疲れているにもかかわらず、気持ちよく私を受け入れてくれたのだ。

そのあと、お母さんと奥さんが2人で心のこもった郷土料理を用意してくれた。最近ではホテルなどでの中国料理店ばかりで、このときは素朴な家庭料理は久しぶりだった。奥さんには大変だったかもしれないが、結婚して3年が経っており、お母さんが「早く孫の顔が見たい」との話題で、大いに盛り上がった。

そのときの食材の数は限られていた。だが湖北省の新鮮な食材で焼きもの、炒めもの、揚げもの、蒸しもの、煮ものに加えて汁ものと、多種多様な料理が出てきて、歓待していただいた。反日デモでせっかくの大宴会がキャンセルになったが、社員やその家族の心のこもったもてなしに、本当に感激した。

「やっぱり料理は心ですね」と私が言うと、お母さんは「田舎の料理は新鮮だし、いつも私の料理を食べていたら、子供は何人でもできるだろうねえ」とまた孫の話になった。

中国の本当によいところは、格好をつけないところだ。習近平政権ではぜいたく宴会を禁止している。高級酒もご法度だ。一方、中国の一般家庭では昔と何ら変わらない「おふくろの味」が楽しめるのである。どこの国でも同じことで、美味しい料理は幸せな家庭から、家族を大事にする心が、各国の食文化を育んでいるのである。

一緒に卓を囲んで楽しくて、おいしくて、健康で、みんなが幸せになるなら、ちょっとくらいならマナーが悪くても、おしゃべりが煩わしくても、「まあ、いいか」と納得したいものだ。日本人として、「みんなで食べる中華料理、万歳!」と叫びたくなる気持ちを大切にしたい。

中村 繁夫 アドバンストマテリアルジャパン社長

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なかむら しげお / Shigeo Nakamura

レアメタル(希少金属)の専門商社「アドバンスト・マテリアル・ジャパン代表取締役社長。中堅商社・蝶理(現東レグループ)でレアメタルの輸入買い付けを30年間担当。2004年に日本初のレアメタル専門商社を設立。著書に『レアメタルハンター・中村繁夫のあなたの仕事を成功に導く「山師の兵法AtoZ」』(ウェッジ)、『レアメタル・パニック』(光文社ペーパーバックス)、『レアメタル超入門』(幻冬舎新書)などがある。

 

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