そんな中、社内に気になる女性ができた。働くフロアは違うのだが、2つ上のバツイチ、吉本美智子(40歳、仮名)。会社の納涼会バーベキューで、同じグループになったのが話すきっかけだった。
「その日彼女が、鉄板で関西風のお好み焼きを作ったんです。懐かしい味で、すごくおいしかった。聞いたら大阪出身だっていう。そこから関西の話で盛り上がって、その日、連絡先の交換をしたんです」
雄介の会社は勤務がシフト制で、日曜日は完全休日なのだが、土曜日は会社がある。社員たちは月曜から土曜日までのうちに、どこか1日をほかの人と重ならないように休みを取るという勤務体制だった。
「納涼会を終えて、次の日曜日に彼女を食事に誘ったんです。『昼間、ランチでもしませんか?』って。彼女も快く応じてくれて、そこから日曜日のたびに、食事に行ったり、ドライブに行ったりするようになりました」
時間を重ねていくうちに、どんどん彼女にひかれていく自分を感じていた。そして、これまでの彼女たちとはできなかった結婚を美智子とはできたらいいなと、漠然と思うようになっていた。
同僚から聞かされた、よからぬ噂
ところがあるとき、よからぬ噂を聞いた。同僚の男性と一緒にお昼を食べていたときのことだ。
社内恋愛は、周りに気づかれると面倒なことになる。美智子とのことはひた隠しにしていたのだが、毎週のように会えているうれしさから、大阪の話題になったときに、「そう言えば、総務の吉本さんも大阪出身だよな」と、何気なく自分から、彼女の名前を出した。
すると、同僚男性が思わぬ発言をした。
「ああ、ウチの課の課長と10年越しの不倫している人な。バレていないと思っているのは当人たちだけで、もう周りはみんな知ってるってーの」
蔑むような笑いを浮かべながら発せられたその言葉に、冷や水をかけられた思いがした。
「不倫? いやぁ、初耳。で、なんでみんなが知ってるの?」
動揺を悟られないように、つとめて冷静に聞いた。
「ほら、ウチの会社、月から土のどこで休むか、月頭に休む日のシフト希望を出すだろう? あの2人、1カ月の休む日にちと曜日がきれいに一緒なんだよ。たまたま一緒ってある場合もあるけれど、もう何年も毎月一緒っていうのは、どう考えてもおかしいだろう?」
不倫していると聞いて、胸が苦しくなった。しかし、もう好きになっていたので、気持ちを止めることはできなかった。そうかといって美智子に不倫していることを確かめることもできずに、その後もしばらくは、日曜日になるとデートを重ねていた。
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