電鉄が「老いる郊外住宅地」を見捨てないワケ 東急と京王が住民とタッグを組んで問題解決

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そこで2012(平成24)年、東急電鉄と横浜市は「次世代郊外まちづくり」の推進に関する包括協定を締結した。地域住民、行政、大学、民間事業者らが連携して課題を解決し、新しいまちづくりを目指す。第1号のモデル地区に選ばれたのが、東急田園都市線沿線で初期に開発された地区の1つ、たまプラーザ駅の北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)だ。

森口さんは、「コミュニティーづくりがカギとなる」と力を込める。

「このプロジェクトは、住民の理解と参画が非常に重要です。たまプラーザ駅北側地区は、住民発意の建築協定や地区計画が策定されているなど、まちへの愛着と意識が高い。また、まち自体が戸建住宅、大規模団地、社宅や商業施設など多様な要素から成り立っており、課題解決へのリソースとなることが期待できると考えられたのです」。ここで得られたノウハウを、やがてはほかのエリアにも展開していくというのが協定の眼目だ。

2012年、地元住民対象に行われた「キックオフフォーラム」には、200人の市民が集まった。「こんなにまちに興味を持つ人がいるのか! この人たちがみんな地域の活動に参加すれば、すごいことが起きる!」こう感動を語るのは、「美しが丘連合自治会」会長の辺見真智子さんだ。

辺見さんは1971(昭和46)年、分譲が始まったばかりの美しが丘に、阪急神戸線の住宅地、武庫之荘から両親とともに移り住んだ。親しみを感じたのは武庫之荘と同じ並木道。「まだ木は小さく、華奢でしたが」。

その後、たまプラーザは住宅地の拡大や商業施設の集積など大きく発展したが、2002(平成14)年から自治会に関わる中で、辺見さんは、コミュニティー意識の薄さに問題を感じていた。自治会の喫緊の課題は防災力の強化。そのために、コミュニティーの強化は必須だ。それが、辺見さんを「次世代まちづくり」プロジェクトに向かわせた。

プロジェクトは住民自らが課題を抽出し、打開策を考えるワークショップと、保育・地域医療やまちづくりの先行事例を学ぶ「たまプラ大学」を開設。キックオフフォーラムの翌年には「基本構想」が策定され、加えて2013年からの2年で住民、NPO、さらには民間事業者から、地域にまつわる企画を募集し、健康コミュニティーづくりや、電力プロジェクトに至る15の企画が「住民創発プロジェクト」として行われた。

また2018(平成30)年には、郊外住宅地の課題の1つ「高齢者の移動の制約」を解決し、外出機会の創出を目指した地域交通の社会実験も行われた。

子育て世代を呼び込む環境と「人のつながりがある街」

岸田美咲さんは、夫婦ともに俳優であり、小学1年生の男の子と幼稚園年少の双子の女の子3人を子育てしているお母さんでもある。

都心回帰を強める現役世代の中で、岸田さんは両親が暮らし、自分が育った環境である、たまプラーザにこだわる。

岸田さんはかえで幼稚園(東洋英和女学院大学付属かえで幼稚園)年長組のときに父親の仕事でアメリカに移住し、小学4年で戻ってきた。知らない学校で心細い思いをする岸田さんに、幼稚園時代の同級生が寄り添ってくれ、まちの「人のつながり」を強く実感した。結婚後はURの大規模団地で暮らした岸田さんは、多様な住環境が存在することが、このまちのよさだと語る。

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