電鉄が「老いる郊外住宅地」を見捨てないワケ

東急と京王が住民とタッグを組んで問題解決

大野さんは1970(昭和45)年にたまプラーザに移住。化粧品会社の営業マンとして日本中を駆け回り、57歳で退職。世代間のつながりの希薄化を感じていた。「密接なコミュニティーを作り出し、まちで何があったか、明日何があるかを伝える手段がほしい」と、2014(平成26)年に開店にこぎ着けた。

ランチタイムが過ぎたホールでベンチャーや地元ネットメディアの経営者が仕事や打ち合わせをしている。壁には地元住民が技能やモノを安価に提供する張り紙が貼られており、これらが一堂に会するイベントもある。ローカルビジネス、スモールビジネスのインキュベーション機能を担う。

「スタバでも、公民館でもない役割を狙います」。大野さんは「まちづくりは自主独立。たまプラーザの文化の発展は、死生観を含めた人の生き方を考えることにあると思います」と意気込む。だからカフェの運営は、資金面を含めて、完全に独立している。

京王電鉄が運営する「移動販売車」

「沿線価値創造部企画担当課長」。京王電鉄の澤昌秀さんの名刺の肩書きには、京王電鉄のまちづくりのスタンスがすべて表現されている。「将来にわたり沿線の活力を維持したい」。老いる住宅地対策、子育て世代を沿線に呼び込む新陳代謝を起こすために、京王は徹底的な「ソフト戦略」で価値を作り出す。

京王の、住宅地の高齢化への対応は比較的早かった。2007(平成19)年に生活支援サービス「京王ほっとネットワーク」を立ち上げ、京王ストアお買いもの宅配サービスや各種相談受付センターをスタート。その後、家事代行など徐々にメニューを拡充してきた。

中でも、2013(平成25)年に締結された多摩市との包括連携協定に基づく「買い物支援事業」は、最寄りの商店から離れて買い物が困難な住民のために、移動販売車を投入。2トン車1台に生鮮食料品や日用雑貨などを積んで、はじめは高齢化が進む京王多摩センター駅、京王永山駅周辺の「多摩ニュータウン」で開始。

各地から要望が相次いだため、狭い道路に入っていける軽自動車を3台増やして販売エリアは八王子市や日野市まで広がり、販売地点も37カ所に増えた。

目的は物販だけではない。「販売車に人が集まることで、コミュニティーの活性化を狙っています」。扱う品目から販売地点の設定まで、ユーザーの要望を細かく拾えるのは、移動販売車の販売員を京王が直接雇用しているから。本業に関係ない事業は外部委託が常道だが、そこにあえて踏み込む。

若い世代を沿線に誘致する策にもソフト戦略が盛り込まれる。京王は認可保育所を沿線に6カ所、東京都認証保育所を2カ所運営するが、今年の6月にオープンした「京王キッズプラッツ多摩センター」は企業主導型保育所として、沿線の企業のほか、UR都市機構との連携も行う。

また、京王多摩センター駅前の京王プラザホテル多摩内にはサテライトオフィス「KEIO BIZ PLAZA」を開設し、時差通勤と職住近接の効果を狙う。「まず住んでもらい、そして、駅周辺まで来てもらう」ことを目指す。

「でなければ、将来は鉄道すら使っていただけなくなるのです」(澤さん)

東急電鉄もまた職住近接の構想を持っている。2011(平成23)年にオープンした「二子玉川ライズ・オフィス」に、コワーキングスペースを併設した「カタリストBA」を設けた。さらに東急電鉄は、これらのまちづくりノウハウを、ベトナムやタイでも展開し始めている。

京王の徹底した「御用聞き」の姿勢はなぜ可能なのか。澤さんは1つの体験を挙げた。1998(平成10)年、新宿駅の案内カウンターの見直しを担当した。それまでカウンター内でお客が聞いてくるのを待っていたが、カウンターから出て積極的に案内するようになったら、はるかに多くの問い合わせやニーズが集まったという。その出来事が、澤さんのその後の仕事への態度を決めていた。

「答えは人の中にある」。「次世代郊外まちづくり」の東急も、細かいケアによってコミュニティーの維持と新陳代謝を目指す京王も、そのことを知っている。

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