「並程度の景気後退」が深刻不況につながる現状 世界の中銀にはもはや政策余地がない
金融政策への信頼性は尽きかけている。リーマンショック後の景気拡大局面においても大国の中央銀行は2%というインフレターゲットに到達することができず、次の景気減速の際には危険なまでに物価が下がるリスクを高める結果となっている。また、近年は低金利を長期間続けるとの公約が景気刺激の主な源になっていたが、投資家が、低金利がずっと続くと期待するようになればその効果は弱まってしまう。
かくのごとくして中銀の景気対策はさまざまな制約に縛られているが、世界規模の景気減速を食い止めるべく共闘することに政府が消極的な時代においては、それはとくに懸念材料となる。
中銀の力だけでは後退を食い止められない
アメリカのドナルド・トランプ大統領が鉄鋼やアルミ製品への追加関税を導入し、ドイツをはじめとする欧州製の自動車に対しても追加関税をちらつかせる中、米欧は通商摩擦のただ中にいるといっていい。トランプは、ユーロ圏経済を守るためにECBがユーロ安を誘導し、アメリカを不利な立場に置いていると批判を繰り返している。
再び景気後退が起きるようなら積極的に対応する用意があると各国の中央銀行の当局者たちは言う。ECBはユーロ圏経済を刺激する政策を採るとしているし、FRBはアメリカ国内で高まるリスクをかわすためにさらなる金利の引き下げをすぐにでも行う構えだ。
だが世界中のエコノミストは、次に景気後退に見舞われた際には中央銀行だけの力で景気を救うのは不可能だと口をそろえて指摘する。そんな現実の前に立ちはだかるのが政治的な制約だ。アメリカやヨーロッパでは、財政負担となる景気刺激策をスピーディーに議会で策定することが不可能(もしくは政治家たちがそうしたがらない)かもしれない。
「財政出動には担うべきはるかに積極的な役割があるが、態勢は整っていない」と、国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストであるオリビエ・ブランチャードは6月、ポルトガルのシントラで開催されたECBの年次フォーラムで述べた。念頭にあったのは欧州各国の状況だ。