「大船渡・佐々木朗希」の終わった夏と194球の謎 今の高校野球の現状は「煮詰まっている」

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5年前の奈良県大会を思い出す。この時期、済美・安樂智大(現・楽天イーグルス)の投げすぎが話題になっていたが、そんな中で、中学屈指の投手だった立田将太(現・日本ハムファイターズ)が「自分は将来のために、高校では毎試合投げません、投げ込みもしません」と宣言をし、スカウトが声をかけてきた有名校には進まず、立田の考えに理解を示す若井康至監督率いる地元の大和広陵高校に進んだ。

立田の決断は、アメリカのメディア関係者の興味を引き、当時Yahoo!スポーツの敏腕記者だったジェフ・パッサンが奈良を訪れ、立田本人や父親、監督にも取材した。

奈良県大会が始まり、大和広陵は準決勝まで勝ち進んだ。2回戦、3回戦ではエースの立田が先発したが、準々決勝は2番手投手の渡邊大海が9回まで投げ、立田は最後を締めて20球だけ投げた。

中1日おいての準決勝は岡本和真(現・巨人)が4番に座る智辯学園との対戦。立田は満を持しての登板だった。大和広陵は2回に5点を先制したが、立田は制球が乱れ、3回、4回に3点ずつを奪われて逆転される。6回に同点に追いつくも、立田は7回に1点、9回に4点を奪われて敗退した。

筆者は立田の準々決勝、準決勝を観戦し、スコアもつけていたが、準決勝の立田の球数は170球を超えた。しかし若井監督は立田を降板させることができなかった。小雨の中、立田は泣き崩れる捕手の肩に手をやり、何事かを語りかけていた。

“投手ファースト”になれない今の高校野球

筆者はこのとき、1人の投手や1人の指導者が「将来を考えて、勝利よりも(投手の)健康を優先しよう」としようと思っても、今の高校野球の仕組みでは不可能なのだということを悟った。

勝ち上がればタイトになる試合日程。一戦必勝のトーナメントの宿命、そして「たかが高校の部活」とは思えない異常な盛り上がりを見せる野球ファン、メディアの期待感。それらをすべて払いのけて、負けるかもしれないのにエースを降板させるのは、想像を絶する重圧なのだ。

今年の大船渡の4回戦では國保監督は、5年前の大和広陵の若井監督と同様、接戦になったためにエースを降板させるタイミングを逸してしまったのだろう。「なぜあそこでエースを降ろしたんだ。勝ちたくないのか」という周囲の声が耳の底に聞こえてしまったのかもしれない。

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