夏の地方大会が始まる前、関係者の間では「國保監督は、トーナメントを戦いながらも、佐々木を守り続けることができるか」に注目が集まっていた。
あるジャーナリストは「高校野球の指導者が、勝利よりも選手の健康を優先して、投手を温存するとすれば、日本の高校野球では初めてのことだろう」と言った。
甲子園予選の前哨戦である4月の春季大会では、大船渡高は1回戦で佐々木を登板させず、延長10回4-5で釜石にサヨナラ負け。夏の岩手県大会には、ノーシードで臨むことになった。ここにも國保監督の並々ならぬ決意を見て取ることができた。
「194球」で佐々木朗希はダメージを負っていた
さまざまな期待と思惑が渦巻く中、注目の岩手県大会が始まった。
◇7月16日 2回戦 大船渡 14-0 遠野緑峰 5回コールド
佐々木は2回を投げて6人をパーフェクト。残る3回を大和田健人(3年)が零封。2人でノーヒットノーランを成立させる。佐々木は19球。佐々木は4番打者として2打数2安打2打点。試合後「球数を少しでも減らしたい」と語る。
◇7月18日 3回戦 大船渡 10-0 一戸 6回コールド
佐々木が先発。6回を投げて93球無安打1与四死球13奪三振。一戸を寄せ付けなかった。打っては4番で3打数無安打1四球。最速は155㎞/h。
◇7月21日 4回戦 大船渡 4-2 盛岡四 延長12回
佐々木は延長12回を1人で投げ切り、7被安打3与四死球21奪三振自責点2。投球数は194球に上った。盛岡四は大船渡と同じ県立高だが甲子園出場経験もある。大船渡は6回に2点を先制するも9回裏、四球と二塁打で無死二三塁とされ、同点適時打を打たれ土壇場で追いつかれた。延長12回、佐々木は決勝の2ランを打った。
この翌朝、私はある野球関係者に別件のインタビューをしたが、彼は開口一番「昨日の大船渡はショックだった」と言った。「佐々木朗希の194球」は多くの関係者に衝撃を与えた。
投手の投球障害をよく知り、海外の野球のスタイルも知る國保監督が、こんな無理をさせるとは。佐々木の投球は以前とは異なり、腕の振りが軽くなっている。緩急を使っているし、肩ひじへの負担が軽くなっている、という専門家もいた。しかしそれでも「194球」は、限界値をはるかに超えている。
もうリミッターを外してしまったのだから「毒食わば皿まで」で、今後、佐々木は投げまくるのではないか、そういう予想もあった。
しかしそうはならなかった。
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