「EU離脱」とラグビーでアイルランドに注目の訳 W杯で日本はアイルランド統一チームと戦う

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ラグビーの場合、南のアイルランド選手の多くはカトリック教徒。これに対して、北では「プロテスタントのスポーツ」でもある。こうした宗教の違いを乗り越えて代表チームが結成されているのは、「南北いずれの地域でも中上流階級のスポーツであり、多様性を許容する雰囲気があるため」という。

2015年のラグビーワールドカップでのアイルランド代表(写真:ラグビーワールドカップ2019組織委員会提供)

1960年代から活発化した北アイルランド紛争では、差別撤廃を求める同地域のカトリック系住民と、プロテスタント住民との間で武力対立が激化。

南北アイルランドの統一を求めるカトリック系のアイルランド共和国軍(IRA)によるテロなどが頻発し3000人以上の犠牲者が出た。紛争は1998年のベルファスト合意(聖金曜日の合意)でようやく終結した。

それだけに、ラグビーの統一チームは美談として語られがち。だが、海老島氏の見立てでは、「恩讐を越えて、といった感じではない」。

中上流階級にはプロテスタント教徒が多い一方、庶民階級の大半を占めるのはカトリック教徒。こうした構造が北アイルランド紛争の一因になった。つまり、ラグビー代表にはもともと社会的な階級の違いが存在せず、南北の選手が融合しやすかったのだ。

アイルランズ・コールが結束を高めてきた

統一チーム結成の歴史は、アイルランドが英国から独立する前の19世紀後半にさかのぼる。イングランドとアイルランドによる初のテストマッチが行われる際、南側のラグビー協会が北側に呼びかける形で実現した。

これに対して、サッカーは「大衆のスポーツ」。北ではプロテスタントだけでなく、カトリック教徒もプレーをしている。このため、北アイルランド紛争が続いていたころには、「試合中に宗教的な対立が顕在化した」ことも少なくなかった。

ただ、ラグビーも南北の分断にまったく影響されなかったわけではない。ゲーム開始前に代表チームが歌うラグビーアンセムの「アイルランズ・コール」。この斉唱が始まったのは1995年のW杯南アフリカ大会からだ。

それまでテストマッチの前に演奏されていたのはアイルランド国歌だった。しかし、北アイルランド出身の選手にはこれに違和感を覚える向きも少なくなかったという。南北の溝を埋めようと作られたのが「アイルランズ・コール」だ。

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